本城先輩と和解して、バイトがあるという瑞花と教室で別れると、わたしと優陽は図書室へ向かった。瑞花はどこか解せないといった顔をしていたけれど、まだ真実は話せない。


「ありがとう、優陽。嘘つかせちゃってごめんね」

「いや、俺は大丈夫だよ。殺された蜂屋すみれは蓮崎のことが好きだったらしい。だけど蓮崎は何度も断ってたんだって。事件があった日も半ばむりやり呼び出されていたみたいだ。蓮崎が来るまで帰らないってさ」

「そっか、だから蓮崎くんはカラオケ屋さんでも不機嫌そうにして忙しなく部屋を出入りしていたんだね」

「そういうことだろうな。多少なりとも蓮崎が責任を感じたらどうしようかと思ったんだけど、意外と精神的なダメージは少ないみたいだ。自責の念よりも、犯人に対しての怒りのほうが大きいらしい」

「でも、きっと蓮崎くんもつらいよ」

「蓮崎は記憶がないことのほうが不安だったそうだ。だから蓮崎が酔っ払いながらも緋莉を家まで送ってくれたってことにして話をしたんだけど、それを聞いて安心したと言っていたよ。結果的に緋莉だけでも救えてよかったって」

「わたしも、改めて蓮崎くんにお礼言っておかなきゃだね。でもよく蓮崎くんも優陽をすぐに信じてくれたね」

「クリスマス会のあとのことは蓮崎の記憶から消えていたけど、メッセの履歴は残っていたからな。緋莉と付き合ったことを話して、ふたりでメッセを確認しながら俺が補足していったんだ。辻褄が合わない部分は緋莉が怖がっていたってことを話すと、スマホが乗っ取られてるのかもしれないって心配してたよ」

「そっか、蓮崎くんって思ったよりも優しいんだね。わたしも誤解してたかも……」

「おそらく蓮崎は『ルカが隠したいなにか』を目撃していたんだろう。だからルカに関する全ての記憶がないんだ。昨夜ルカが『記憶を消すため』って言ったのは真実(ほんとう)だと考えるしかない」

「でも記憶を消すって、一体どうやって?」

「それは、わからないけど……。でもこれであいつが普通じゃないことははっきりした。それで午後は調べものをしていたんだ。あいつが緋莉を狙ってる以上、早く手を打たなきゃいけないと思ったからね」


 そうだったんだ。わたしが普段と変わらない日常を過ごしてる間に、優陽は沢山考えて動いてくれてたんだな。


「もうルカが吸血鬼かどうかだなんて悠長に疑っていられる段階じゃない。資料を持ってくるから、座って待ってて」


 そう言われたわたしは、適当に手にした短編集を広げて優陽を待つことにした。図書室には勉強や居眠りをしている人の姿がちらほら見えるけれど、皆が距離を取っていて互いの会話が聞こえそうな位置に人の姿はない。