わたしも慌ててふたりのあとを追いかけようと立ち上がったが、瑞花がそれを制した。
「今緋莉が行くと余計拗れちゃうかもしれないから、ここは浅桜くんに任せよう」
確かに今わたしが出て行ったところで、話がややこしくなるだけかもしれない。瑞花の言葉にわたしは静かに頷くと、自分の席に腰をおろした。
今度は教室内の目がわたしに集中する。すると、蓮崎くんが立ち上がりわたしと瑞花の席へやってきて言った。
「悪いな、立華。俺のせいでややこしくなっちまって」
「ううん、きっと優陽がなんとかしてくれると思うから」
「なんか俺のスマホから色々メッセが送られてたみたいだけど、全く身に覚えがないんだ。だから気にしないでくれ」
あれだけ送ってきたメッセを今さら知らないだなんて、じゃあやっぱり昨夜ルカさんが言っていたのは……。
「大丈夫、ありがとう。でも蓮崎くん、クリスマス会のあと、わたしを送ってくれたって……」
「あぁ、そうらしいな。実はそれも覚えてないんだけど、あの日の俺は相当酔ってたみたいだし、スマホもそん時にスパムでも開いたのかもな。ホストやってたから酒には自信あったんだけどなぁ」
「そ、そうなんだ。中学生なのにすごいね」
中学生時代に年齢を偽ってホストをしていた噂は聞いていたけれど、平然と言われてしまうとこちらも反応に困る。
「え? ……あぁ、そうか。敢えて言うことじゃないから黙ってたけど、俺もう二十一なんだ」
「え?」
「は?」
わたしだけじゃなく、瑞花も素っ頓狂な声をあげる。
「元々中卒で四年間ふらふらしてて、去年ここ受験したんだよ。あ、入学前にホストは辞めたぞ」
「え、嘘……だよね?」
「真実だって。でもそんなこと言ったらクラスで浮いちまうだろ? だから黙ってただけ。今さら気ぃつかったりすんなよ?」
「は、はい……いや、うん」
クラスメイトに年上がいるなんて想像もしなかった。どうりで大人びた容姿をしているわけだ。
「すみれを殺した奴のことは今も許せないけど、結果的にお前だけでも助かってよかったよ。もしかしたらすみれじゃなくてお前が殺されてた可能性もあったわけだしな」
わたしの記憶と蓮崎くんの話が全然繋がらない。一体どうなっているのだろう? でもきっと優陽との話が関係しているはずだ。せっかく優陽が手を尽くしてくれているのだから、今は余計なことは聞かないほうがいい気がする。
「みんなも騒がせてごめん。胡桃も亡くなった友達のためにちょっと熱くなってるだけだから、気にしないでくれ」
クラスのみんなにそう告げる蓮崎くんの姿は、確かに少し年上に見えた。
「胡桃もああ見えて素直だからな。あとは浅桜がなんとかしてくれるだろ。立華も良い彼氏持ったな」
「え? ちょっと蓮崎くん!」
蓮崎くんはわたしを揶揄うようにそう言うと、からからと笑いながら教室をあとにした。