しんと静まる部屋に入ると、嫌でも思い出すのはやはりさっきの銀髪男性だ。今からでも警察に通報したほうがいいだろうか?
けれど状況をうまく説明できる自信もないし、なによりお母さんに心配をかけたくない。
クリスマスパーティーの帰り道で怖い男達に絡まれた、なんて言ったら楽しい気分に水を差すことになる。
男の人同士なんだから、きっと大丈夫。
それに助けてくれたってことは、腕力にも自信があるに違いない。実際相手もたじろいでいたし、もしかするとあの人の強さにびっくりして逃げちゃったかもしれない。
そう言い聞かせることしかできない弱い自分に、罪悪感が重くのしかかる。
部屋着に着替えてからもしばらく悩んだ挙句、結局通報はしなかった。
その後はずっと、胸に小さな棘が刺さったまま過ごしているみたいだった。
お母さんが焼いてくれたケーキの味もあまりわからなかったし、それが余計に悲しくてつらい。わたしが喜ぶと思って、せっかく作ってくれたのに。
心の中で誰に向けてかわからないごめんなさいを繰り返し、顔に笑顔を貼り付けたまま、人生最悪になったクリスマスイブの夜は、ゆっくりと時間を掛けて過ぎ去っていった。