SHRが終わった放課後、優陽がようやく教室へ戻ってきた。


「遅くまでありがとう。大変だったね。なにかわかった?」

「あぁ、でもその前に……」


 優陽が口を開いたのと同時にがらがらと音がして教室の扉が開いた。怒りを主張するような乱暴な音で教室内が水を打ったように静まり返る。皆と同じようにわたしも扉に視線を向けると、不機嫌そうに教室内を見渡す本城先輩と目が合った。

 もしかして昨日のことでまだわたしに文句があるのかもしれない、と憂鬱になったけれど、バツの悪い顔をして目を逸らしたのは本城先輩のほうだった。その視線が蓮崎くんを捉えると、目を釣り上げて棘のある声を響かせる。


「ちょっと要、さっきのメッセなに? わたしが誤解してるって、どういうことなの?」


 そう言いながら蓮崎くんの元へと距離を詰めていく本城先輩。


「言葉のとおりさ。俺はあの日すみれ先輩を見た覚えはないよ」


 睨みつける本城先輩を、蓮崎くんは席に着いたまま深刻な顔で見上げて続けた。


「今日、浅桜の話を聞いてわかったんだ。クリスマス会で立華のプレゼントをたまたま受け取った俺は、立華に家まで送ってやるってメッセージを送っていた。すみれ先輩には悪いことしたと思うけど、浅桜の言うとおり立華を送った後にひとりで帰っちまったんだと思う」

「は? それじゃあ前に言ってたことと違うじゃない。だってあのときは……」 


 言葉を詰まらせた本城先輩がわたしにちらりと目をくべると、躊躇うように続きを口にした。


「あ、あのとき、蜂屋さんに呼び出された場所で蜂屋さんとあの子のこと(・・・・・・)を見たって言ってたじゃない。どうして話が二転三転するの? それになんで優陽が出てくるの?」


 本城先輩は蓮崎くんの返事も待たず、間髪入れずに捲し立てる。その勢いにクラス中の目が集まる。


「実を言うとさ、俺あの日のことはあんまり覚えていないんだ。だからなんでお前にそんなこと言ったのかさえもよくわからないんだよ。でもすみれもクリスマス会があるから会えないって断ってるのにしつこかったし、俺もヤケになってたんだと思う。それに記憶が曖昧なのは、あのカラオケ屋が持ち込み自由で……」


 蓮崎くんは続きを口にせず、眉間にしわを寄せ目を泳がせ始める。すると、優陽が間に割って入った。


「蓮崎、その先はここで話しちゃまずいだろ? 緋莉はお前のおかげで事件に巻き込まれなかったわけだし、俺から説明するよ」

「あぁ、助かるよ。お前のほうが状況を良く知ってるみたいだしな。でもさっきも言ったけど、俺は立華に対して下心はないからな。確かに立華に宛てたメッセの履歴がいくつか残ってたけど、ほんとうに身に覚えがないんだ」

「わかってるよ。だからあれ以来お前のスマホが乗っ取られてた可能性もあるし、早めに機種変しろよ」

「ああ、そうする」


 そう言って、優陽は本城先輩の腕を掴み教室から連れ出そうとする。


「ちょっと優陽、やめて! わたしまだ要に話があるんだから!」


 本城先輩はまだ納得がいかないといった様子だ。