「今日、菊川先生がお母さんから聞いたって言ってたよ。わたしには染色体の異常があるって」
お母さんはわたしをじっと見つめたまま、しばらく言葉を選ぶように口を閉ざしていたけれど、やがてゆっくりと口を開いた。
「……病気ってほど深刻じゃないから、心配しなくても大丈夫よ」
「ほんとに? 病院とか行かなくていいの?」
「ええ、大丈夫」
「またこんなふうになっちゃったら、どうしたらいいの?」
「菊川先生には説明してあるから、保健室で休ませてもらいなさい。あと少しで薬が完成するし、そうすれば全部解決するわ」
「その薬を、お母さんが作ってるの?」
間髪を入れずに問いかけていく。
「まさか、お母さんそこまで賢くないわよ。さっ、もう気にしないでお風呂入ってらっしゃい」
一方的に切り上げるようにして、お母さんはカウンターキッチンへ戻ると、置いてある野菜を洗い始めた。