「……ただいま」


 玄関をくぐるといつもの暖かい我が家の空気が広がっていた。それだけでさっきまでの恐怖が幾分和らいだ気がする。

 靴を揃えてリビングの扉を開けると、お母さんがキッチンカウンターから笑顔を見せた。


「緋莉、おかえりなさい。パーティー楽しかった?」

「うん、楽しかったよ……」


 肩から下げたかばんを持つ手にきゅっと力を込めて、なんとか平静を装う。


「今日はケーキを焼いてみたの。食べる?」


 目を細めて笑うお母さんの栗色の長い髪がふわっと揺れる。短く「うん」と返事をすると、「着替えてくるね」と言い残してそそくさと二階へと向かった。