浮ついた足取りで家に入ると、外との気温差でまるでさっきまで違う世界にいたように思えた。
今日起きた事件は浅桜くんの告白も含めて全部夢だったんじゃないだろうか。頬をつねってみたけれど、こんなので夢かどうかを確認している時点でこれが現実なんだと実感が込み上げてくる。……ひとりでなにやってるんだろう。
状況はなにも変わっていない。登下校中に二度も殺人犯扱いされて、蓮崎くんが殺人犯を名乗るルカさんに襲われて、浅桜くんに告白されて、初めてのキスをした。
たった一日でこれだけいろんなことが起こるなんて、今日は一生忘れられない日になりそうだ。
リビングの扉を開くと、お母さんがカウンターキッチンから小走りで駆け寄ってきた。
「緋莉、おかえりなさい。菊川先生からお電話頂いたけど、具合はどう?」
ソファーに鞄を置いてマフラーを外しながら、お母さんになにから伝えるべきかを考える。
「うん、もう大丈夫だよ」
ついさっきまでは浅桜くんと両思いになれたことで浮かれていたけれど、お母さんの顔を見ると、菊川先生の言っていた染色体異常のことが頭をよぎる。
「安心したわ。外は寒かったでしょう。すぐお風呂に入りなさい」
「うん……」
悩んだけれど、いつかは聞かなくてはいけない。それなら早いほうがいい。
スカートの裾をぎゅっと握って静かに深呼吸すると、わたしはお母さんに問いかけた。
「お母さん……わたしって病気なの?」
「え?」
一瞬お母さんの顔にちらりと影が差すのを、わたしは見逃さなかった。