「だめ! それはやめて!」

「どうして! あいつはさっき緑地公園や他の殺人事件を自白したんだ。蓮崎は生きていたとしても、そのことは警察に報せなくちゃ!」


 確かにそれが筋だ。どう考えても浅桜くんの言うことが正しい。でも、だけど!


「きっとルカさんは犯人じゃない。なにか理由があるんだよ! だってあのとき、わたしを助けてくれたんだもの! それに今もわたしを苦しみから解放してくれるって言ってくれた!」


 気づけば涙が溢れていた。迷子になった子どものように泣くわたしの頬に、浅桜くんの手が優しく触れる。


「わかったよ立華。通報はしない。その代わり、あいつとどういう関係なのか全部話してくれないか? 俺もあいつとは店で会って何度か話したこともある。そのときは娘を探しに冬咲市へ来たと言っていたのに、今では人を殺したとか自分は吸血鬼だとか、言ってることが滅茶苦茶だ。その挙句に立華の力になると言われても、到底信じられない」


 困ったような顔をしながらも、浅桜くんの瞳は真っ直ぐにわたしを見つめてくれる。


「ごめんなさい。実は……さっき全部話すつもりだったの」


 だけどすぐに顔を背けてしまうのは、ほんとうは話すのが怖いから。身体のことはもちろん、大晦日に浅桜くんと偶然出会ったときにルカさんを追いかけていたことだって、隠すわけにはいかない。


「話したら、嫌われちゃうかもしれないけど……」

「どんな話でも、俺が立華を嫌うことなんてないよ」


 そう言って目尻を下げる浅桜くんの、穏やかな声色。この声と瞳に焦がれていた日々が、どこか遠くに感じられる。