緑地公園を出てからも、浅桜くんはわたしの腕を離さずに住宅街の中をどんどん駆けていった。
「浅桜くん! だめ……わたし……もう、走れない」
もつれそうになる足を止めると、浅桜くんはわたしの体をぐいっと引き寄せて辺りを見渡した。
「追ってきてない……みたいだな」
浅桜くんの胸に顔を埋めた僅かな時間。その声とぬくもりに深く身を委ねると、苦しかった呼吸が随分ラクになったような気がした。
浅桜くんが体をそっと離して、わたしの両肩に手を乗せる。その眼差しはとても力強く、ルカさんとはまた別の強い安心感に包まれる。
「大丈夫?」
「う、うん……ありがとう」
安心感……。それはルカさんに対しても確かに感じていたものだ。でもそれは今浅桜くんに抱いているような切なさは含まれず、ただ大きくて優しい存在に包まれている。そんな感覚だった。
「とにかく、警察に通報しよう」
――警察? そんなことしたらルカさんが殺人犯として追われてしまう。そして捕まれば死刑に……。