十二月にしては暖かいクリスマスイブ。
チキンが焼ける香ばしい匂いが、わたしの幼馴染で親友でもある瑞花の家に充満している。
「いい匂いしてきたね!」
「これ絶対おいしいやつじゃん!」
ダイニングテーブルで付け合わせのサラダを作っていたクラスメイト達が、手を止めて気の早い歓声をあげた。
「まさかフライパンで作っちゃうなんて、さすが緋莉」
壊れたオーブンの前で瑞花が艶のある黒髪を耳にかけ、わたしに笑いかける。
綺麗に切り揃えられた前髪。重めの姫カットが瑞花の笑顔を十六歳という年齢よりも幼く見せていた。
「まだ油断できないけどね」
瑞花の笑顔に魅せられる前にフライパンへと視線を戻す。
よかった。気を緩めるには早いけれど、今のところはうまく焼けてるみたい。
こんがりと焼き色がついたチキンを見てほっと胸を撫でおろした。
高校生になって初めてのクリスマス会は、持ち込み自由のカラオケ屋さんで今日の十八時からだ。
わたし達はローストチキンを作って持っていこう! なんて盛り上がったものの、『緋莉、料理好きじゃん』『緋莉なら作れるよね?』と、みんなわたしに丸投げ状態。
別にそれは構わない。こうしてみんなが頼ってくれるのは、素直にうれしい。
だけど急にオーブンが使えなくなるとは思わなかった。完全に想定外だ。
わたしはただの料理好きな高校生。お店のコックさんじゃないんだからこうなるとお手上げだ。
タイミングを見計らったかのように火が入らなくなったオーブンを涙目で見つめ悩んだ末に閃いたのが、今試しているフライパンだけで焼き上げるレシピだった。