「浅桜くん、もしかしてなにか、ひどいことされたんじゃ……」
「あぁ、これ? その彼氏って奴に殴られたんだ。俺が彼女を脅してると思ったんだって。笑えるよな。まあ最終的にはわかってくれたし問題ないよ」
同じだ、あのときと……。ルカさんが公園でわたしを庇ってくれたあの夜と。わたしはまた、誰かに守ってもらって、守ってくれた人が傷つけられてしまった。
「蜂屋って人は他校の生徒なんだけど、本城先輩のバイト仲間だったらしいよ。クリスマスイブにあの緑地公園にいて、運悪く事件に巻き込まれたんだってさ」
「そう……だったんだ」
蜂屋すみれさんには気の毒だけど、わたしとは無関係の人だということに今は少しだけほっとする。
「ごめんなさい浅桜くん。わたしのせいで、痛い思いさせて……」
「関係ないって。俺が勝手に出しゃばっただけだよ。さあ、送ってやるから帰ろうか」
そう言って浅桜くんはわたしに鞄を差し出すと、教室の扉へと足を向ける。
「で、でも……」
「なに? それとも俺じゃなくて、他の誰かに助けてほしかった? ルカさん……だっけ?」
「違う! あの人は関係ないの!」
強い否定を口にすると、浅桜くんはくすりと笑みを浮かべた。
「ごめん、ちょっと意地悪だったよな。さあ、もう帰ろう」
誘われるように、わたしもその背についていく。
廊下に出ると、浅桜くんの学生服の裾をそっと掴んだ。
浅桜くんはなにも言わずにわたしの一歩先を歩いてくれた。