そういえば、うっすらとだけど覚えがあった。瑞花の家のパソコンで見せてもらった、緑地公園の事件で犠牲になった被害者達の名前。その中に、わたしに絡んできた男達と共に被害に遭った女の子の名前が載せられていた。その名前が、確か……。


 ――蜂屋すみれ。


 珍しい苗字だったから、記憶の片隅に残っていた。


「もしかして、あのときの――」

「――やっぱり知ってるんじゃない!」


 言い切る前に両肩を掴まれ、わたしは廊下の壁に体を押しつけられた。


「痛っ……離して!」


 手の力が抜けて落としたカバンから、中身が飛び出して散らばる。小さな保冷バッグに入れてラッピングされたオペラが床を滑り、本城先輩がそれを躱すように足をあげると、その足がおもいきり保冷バッグを踏みつけた。


「あ……」


 保冷バッグが鈍い音と共にへこみ、わたしを掴んでいた本城先輩の手が解ける。慌てて手を伸ばしたが、今度は違う上級生の手が横から伸びてきて保冷バッグを拾い上げた。そして他の上級生達がまたわたしを壁に押さえつける。


「なにこれ? 人殺しのくせに、誰に渡すつもりだったの?」

「あんた何様? さっさと白状しなさいよ」


 目を釣り上げた知らない上級生達はわたしの肩を押さえたまま、罵倒する言葉を次々と投げつけてくる。