目の前の惨状に目を奪われながらも鼻をひくつかせていると、ひとりの男が声をあげて銀髪男性に殴りかかっていった。

 しかし、その体は途端に宙に舞い上がり、叩きつけられるように地面に落ちる。


「な、なんだこいつ!」


 まるで車にでもはねられたように舞い上がった男は、銀髪男性に投げ飛ばされたらしい。この華奢な体のどこにそんな力があるのだろうか。

 でも彼が無事でよかった。

 金属バットなんかで殴られて、もし打ちどころが悪ければ死んでいたかもしれない。それなのに、この人はまだわたしを助けようとしてくれている。

 銀髪男性が無事だったことと、その優しさや意外な豪腕ぶりにどこかほっとしたわたしは、心の奥から沸々と込み上げてくる怒りと、それに相反してゆっくりと落ちていく瞼が、視界と共に徐々にわたしの意識を奪っていくのを感じていた。