「ごめんねー、呼び止めちゃって」


 いくら先輩とはいえ人を無理やり引き留めているくせに、このへらへらした態度は正直気分が悪い。


「いえ、それよりなんですか?」


 苛々が声に乗ってしまい、本城先輩が一瞬顔をしかめる。


「じゃあ、もう率直に聞くけどさ。蜂屋さん殺したのって緋莉ちゃんなんでしょ?」


 周りの取り巻きをかきわけるようにゆっくりとわたしに近づいてくる本城先輩は、さっきまでの微笑が嘘のように目を尖らせていた。その目に睨まれた上に人を殺したなんて言いがかりをつけられたことに、背筋がぞくりとする。

 だけど、ろくに話したこともない相手を急に人殺し扱いするなんて、失礼にもほどがある。いきなりなんだ、この態度は。そもそも蜂谷なんて人知らないし。


「あの……なに言ってるんですか?」


 訝しげに問い返すと、本城先輩がわざとらしくはぁっと溜め息を吐いた。

 いや、溜め息を吐きたいのはこっちなのだけれど。


「わたし、もう行きますね。失礼します」


 募る苛立ちを今度はわざと声に混ぜて、上級生の間を縫うようにその場から離れようとすると、本城先輩が右手でわたしの肩を掴んで態度を豹変させた。


「とぼけないで! あなた、あの日緑地公園にいたんでしょ? 要からそう聞いたのよ!」


 憎しみと悲しみを織り交ぜたような目。少しだけ冷静になって、頭の中で記憶の海を漂う。蜂屋……はちや……ハチヤ……。