結花さんでさえひとりだと完成まで四時間以上かかるそうだけれど、この作戦が功を奏してかなりの時間を短縮出来た。


「作戦成功だね。次はクリームを塗り重ねていくんだけど……」

「あーわたしパス。多分失敗するから」


 結花さんの言葉に間髪を入れず瑞花が作業を辞退した。


「じゃあ、緋莉ちゃん、やってみる?」

「はい、やってみたいです」


 結花さんに教わりながら、少しずつビスキュイジョコンドやコーヒーバタークリームなどの層を塗り重ねていく。

 何度も失敗しては結花さんに手助けしてもらい、なんとか形になったケーキを冷蔵庫で一旦寝かせると、コーティング用のグラサージュショコラを作った。

 二時間ほど冷やしたケーキに粉糖とグラサージュショコラをかけてもう一度冷やし、切り分けて金箔を乗せれば完成だ。

 コーヒーシロップを染み込ませたビスキュイジョコンド、バタークリーム、ガナッシュが何層にも重なり、中央に金箔が飾られたオペラは見た目もシックで美しく、お菓子というよりまるで宝石箱のようにも見えてくる。

 精魂尽き果てたわたしと瑞花が紅茶を前にしてダイニングテーブルに突っ伏していると、結花さんが切り分けたオペラを持ってきてくれた。


「じゃあせっかくだから、味見してみようか」


 あれだけ手間暇がかかったケーキを食べるのはなんだかもったいなく思えて、なかなかフォークで切り分けることが出来なかったけれど、いざ口にしてみると濃厚なチョコの甘さとコーヒーのほろ苦さが絡まって、まるでプロが作ったような味わい深さがあった。

 甘い優しさと、どこか苦いクールさを併せ持つルカさんには特にぴったりなイメージだ。

 これならきっと、甘いものが苦手な人でも食べられるだろう。浅桜くんとルカさんが甘いものが好きかどうかはわからないけれど。