「緋莉ちゃんも、ついに二次元の推しを見つけたんだね!」
「……は?」
わけがわからない。ていうか、どこからそうなったんだ。
「隠さなくていいよ! わたし応援するから。わたしにもそういう時期があったから、わかるよ!」
「あーおねえちゃん、そうじゃなくて……」
瑞花が助け船を出してくれたが、結花さんの目は明後日を捉えてきらめいている。もはや訂正など意味を持ちそうにない。
「そうだ、ヨーロッパならオペラとかいいんじゃない? フランス発祥だし。あ、緋莉ちゃんの好きな人って、もしかして今流行りの異世界転生? それとも追放されちゃった?」
誤解されたままなのが癪だけれど、ルカさんにフランスのお菓子なんて、たしかに素敵な組み合わせだ。
「異世界とかではないですが、それ、ぜひ教えて欲しいです。わたしでも作れますか?」
「オペラはちょっと難しい上にかなり手間がかかるけど、緋莉ちゃんならできると思うよ。でも祭壇作るならもう少し華やかなケーキのほうがいいかなあ」
料理が得意と自負しているものの、実はお菓子作りにはあまり自信がない。というのも料理は感覚や感性でもある程度味が整うけれど、お菓子はそうはいかないからだ。きちんと分量を測らないととんでもない味に仕上がってしまうこともある。逆に言えばレシピ通りに作れば必ず美味しくできるのだろうけれど、大雑把な性格のわたしはそれがちょっと苦手。それにそのときの気温や湿度にまで気を配らないといけないらしいし、そうなるとわたしの手には負えない。だからたとえ誤解されていたとしても、結花さんに教えてもらえるのは心強い。
「じゃあ、それでお願いします」
「うん、推しのためにも頑張ろうね!」
祭壇という妙なワードには触れないでおこう。