「どうしよう緋莉。プレゼントなにも用意してないや」

「だよね。だって瑞花、お父さんの誕生日なんて一言も口にしてなかったもん」


 スマホを取り出して時刻を確認する。まだ十六時を過ぎたところだ。これから買いに行っても十分間に合うだろう。


「今から買いに行こうよ。わたしも付き合うから。お店もまだ空いてるし大丈夫だよ」

「でも、今日はバレンタインのお菓子決めるはずだったのに」

「バレンタインまでにはまだ時間あるじゃない。それに結花さんだって今は忙しそうだし」

「あら、緋莉ちゃんは、わたしになにか用事かな?」


 バレンタインと自分の名がセットになっていることに気がついたらしい結花さんが、わたしに顔を向けた。


「はい、実はバレンタインに作るお菓子が決まらなくて、結花さんに相談したかったんです」


 それを聞いた結花さんの顔に、明るい笑みが浮かんだ。


「もちろんいいよ。で、瑞花の相手は蘭雅くんだとして、緋莉ちゃんは誰にあげるの?」

「そ、それは……」


 少しいたずらっぽい笑みに切り替えた結花さんは、わざとらしく顎に人差し指を添えて言った。


「ふふ、どんな人なのか教えてくれたら、その人に合うようなお菓子を考えてあげるんだけどなあ」


 結花さんが知らない相手とはいえ、いざ浅桜くんのことを口にするのは恥ずかしい。

 なんて説明すればいいんだろう……。今は浅桜くんじゃなくて、ルカさんのことを話しておこうかな。それならさほど恥ずかしくもないし。