そんなことはお構いなしに、目前に迫ったバレンタインに向けて校内は色めき立っていた。


「やっぱり普通のチョコじゃ物足りないよね。溶かして固めるだけなんて、誰でもできるし」


 瑞花がマウスをクリックしながらぼやいている。

 センター試験を終えて、一般入試真っ最中の三年生はもうほとんど登校していない。受験生に気兼ねなく調べものができるのはありがたい。


「瑞花はどんなのが作りたいの?」

「やっぱりわたしは見た目もかわいいお菓子がいいな。マカロンとか」

「それ、自分が食べたいだけじゃないの?」


 笑いながらページをクリックしていくが、どれもいまいちピンとこない。結局結花さんに相談することにしてパソコンから離れると、わたし達は宵月家を目指して灰色の湿った空の下を歩いた。


「緋莉はもちろん浅桜くんにあげるんだよね。ルカさんにはあげないの?」

「一応考えてはいるんだけど、いつ会えるかわかんないし」


 あの日以来、ルカさんとはまた会えない日々が続いていた。

 もうこの町にいないのではないかと考えてしまうこともあるけれど、同時にまたそろそろふいに会えるのではないかという期待も、僅かながら膨らんでいる。

 わたしがルカさんと会える日を密かに待っていることを知ったら、ルカさんはどう思うのだろう?

 相変わらず低い空を見上げながら、ふうっと白いため息をひとつ落とす。

 わたし達の距離はいつもどおり変わらない。

 わたしはただ待つだけの日々。