目を覚ますと頭が鉛のように重かった。
昨夜は二十一時頃ベッドに入ったので寝不足になるはずはない。それなのにまだ体はだるく、脳は過剰な睡眠を要求してくる。
もやがかかったような頭を軽く振って窓に目をやると、空はまた分厚い雲に覆われていた。今日も雨か雪が降りそうだ。
錆び血が巡っているかのように軋む手足をむりやり動かしてベッドから起き上がると、重い体を引きずりサニタリールームへ向かった。
鏡を覗くと、自分でもわかるくらい顔色が悪い。
ちゃんと食べてるし普段からよく眠っているはずなのに、どうしたんだろう。風邪でもひいたのだろうか?
のろのろとリビングへ向かうと、丁度お母さんがスーツに袖を通しているところだった。
「緋莉、おはよう。お母さん、ちょっと研究室へ行ってくるわ。今大学から連絡があって、解析した有機化合物の合成方法がついに見つかったそうなのよ」
お母さんはわたしの顔を見るなり声を弾ませた。
「おはよう、お母さん。えっと……よくわかんないけど、それってすごいことなの?」
「もちろんよ。これでようやく新しい薬の完成が見えてきたわ」
「お母さん、薬とか作ってたんだ。すごいね。なんの薬?」
製薬会社でもないのに、今どきの大学は新薬の開発までこなしてしまうのかな? それともなにか他の事情があるのだろうか?