浅桜くんは席に座らず、みんなの水とおしぼりを用意してくれた。


「まずは好きなドリンクを選んで。食事はランチセットがおすすめだよ。みんなステーキは好き?」


 にこりと笑って問い掛ける浅桜くんは、なんだかうれしそうだ。


「もちろん!」

「昼からステーキなんて最高だな!」

「わ、わたしも好き」


 また遅れてから返事をすると、皆渡くんはコーヒー、瑞花はオレンジジュース、わたしはアップルティーを注文した。


「じゃあ、ちょっと待っててね」


 浅桜くんはキッチンへ入ると、手際よく飲み物を準備し始める。ここによく友達を連れてくるのだろうか? 浅桜くんのお父さんはわたし達がドリンクを選んでいる間から既に調理を始めていた。


「はい、お待たせ」

「あ、ありがとう」


 ソーサーに乗せられたティーカップがわたしの前に置かれる。カップの取っ手が左に、そしてティースプーンの持ち手が右になっていて、お母さんから教えてもらった紅茶のマナーが頭をよぎる。大抵は自分の利き手に持ち手を持ってくるのだろうが、紅茶は本来これが正しいそうだ。教えてもらっておいてよかったなと、密かにお母さんへ感謝する。

 思わず背筋を正して、逆時計回しに取っ手の向きを変える。浅桜くんのお父さんの前だと思うと、些細なことでも緊張してしまう。