大通りをしばらく歩いて、路地を曲がり横道に逸れたところで浅桜くんが足を止めた。
「着いたよ。ここが父さんの店」
立派な木製の扉と、店先のイーゼルに立て掛けられた小さな手書きの看板。アンティーク調のこじんまりとした佇まいは、いかにもお洒落な隠れ家といった様相だ。
「すてきなお店……」
小さくてどこかかわいらしい雰囲気に、思わず声が漏れる。
「ありがとう。今はカフェ営業の時間なんだ。さあ入って」
浅桜くんが扉に手を掛けると、見た目とは裏腹に扉は軽快に開いた。
扉の横の大きな窓は外からの光を多く取り入れていて、カントリー調の内装は夜の雰囲気にも合いそうだ。カウンターの中では細身だけどガッシリしている黒髪の男性がグラスを磨いていた。
「いらっしゃ……なんだ、優陽か」
「やあ、父さん」
「友達か?」
「そうだよ、席空いてるでしょ?」
「まあ、うちは夜がメインだからな」
浅桜くんのお父さんが小さく鼻を鳴らす。見渡すと店内にはわたし達以外誰もいなかった。カウンター席についたわたし達に穏やかな声で「いらっしゃい」と言ってメニューを渡してくれる。