恐怖心を堪えながら薄く目を開けてみると、淡く白いもやが視界に飛び込んでくる。慌てて目を見開くと、いつの間にか辺り一帯に濃い霧が立ち込めていた。

 わたしが目を閉じた一瞬の間に、いったいなにが起きたのだろう。そう疑問を覚えた瞬間だった。


「手を放せ」


 その霧を切り裂くように聞こえてきた、少し高くて透き通るような声。けれど、はっきりとした強い口調。


 誰……? もしかして、誰かがわたしを助けに来てくれたのだろうか……?


 おそるおそる顔を上げて、わたしを取り囲む男達の足の隙間から見えたのは、黒いコートのポケットに手を入れたまま立っている男性の姿。

 一瞬戸惑ったのは、彼が見事な銀髪だったから。


「なんだてめえ。こいつの男かよ」

「……聞こえなかったか? その手を放せ」


 銀髪男性が足音も立てずに近づいてくると、腕を掴まれていた感覚がすっとほどけた。男達が彼を避けるように道を空ける。


「あんた、もう行っていいよ」


 わたしを背にかばう様に立ち、少しだけ振り返って見えたその顔立ちは、言葉では言い表せない美しさだ。

 漆黒の夜空に映える月色のような銀の髪。雪のように真っ白な肌。二重で大きい目に切れ長の眉。潤んで愁いを帯びたような瞳はうっすらと紅く、吸い込まれそうなほど美しいけれど、その表情はどこか寂しさを纏っているように感じさせる。