ダーツコーナーへ戻ると、浅桜くんが皆渡くんにスローイングの指導をしていた。


「セットアップからフォロースルーまでの動作を、ひとつずつ意識するといいよ」


 わたしのときと同じように、皆渡くんの手を取ってそのフォームを矯正している。そう、浅桜くんにとっては単なる指導の一環なんだ。だからこそわたしは意識し過ぎないようにしなくちゃいけない。けれど、男の子がふたりきりで手を取り合いながらダーツをするのもどうかとは思うけれど。


「ふたりともおまたせー!」


 妖しい空気をかき消すように、瑞花が呼び掛けて続ける。


「浅桜くんに教えてもらってたの?」

「おう、やっぱ基本が大事だわ。優陽は名コーチだな」


 瑞花から飲み物を受けとった皆渡くんは、またその場でフォームの再確認を始めた。わたしも浅桜くんに駆け寄って飲み物を差し出す。


「さっきはごめんなさい。炭酸だけど大丈夫だった?」

「大丈夫だよ。悪いね、買いにいかせて」

「ううん、教えてもらってばかりじゃ、気をつかっちゃうもん」


 弱気な自分を吹き飛ばすような笑顔を携えて言葉を返す。


「ありがたく頂くよ。じゃあ記念すべき一投目を投げてみようか」

「うん!」


 変に自分を卑下するのはもうやめよう。今は素直にそう思えた。