トイレに駆け込み、鏡で自分の顔を確認する。ほっぺたもおでこも尋常じゃなく熱いけれど、幸いにも目で見てわかるようなおかしな変化はない。泣くのも我慢できそうだ。
カバンからハンカチを取り出し口に当てて、乱れた呼吸を整えようと大きく息を吐いた。もう一度鏡を見直して、なんとなく手ぐしで髪を整える。
「やっぱりここだった」
ふいに声がして、鏡越しに入り口へと視線を移す。
「瑞花……」
「さっきの本城胡桃さんって人、バスケ部のマネージャーなんだって」
「……そうなんだ」
だからあんなに親しそうに話してたんだ。
「ごめん。わたし、あの人見てたら居づらくなっちゃって」
「わかるわかる。わたしらとは全然違うタイプだもんね。だからって余計なこと気にしてちゃ駄目だよ」
「……うん、そうだね」
瑞花の言う通り、わたしのコンプレックスからくる身勝手な嫉妬で周りの空気を悪くしちゃいけない。
「それにさっきは結構いい感じだったじゃない。緋莉には緋莉の良さがちゃんとあるんだから、自信持ちなよ」
「……うん」
そう言ってもらえてうれしいけれど、自分の良いところなんて全然わからない。だけどメイクも髪型もしっかり決めているお洒落な人を見て自信を失うなんておこがましいとは思う。わたしはそれほどお洒落に貪欲ではないのだから。かわいくなる努力をしていない。それなのに、自分と誰かを比べて幸せになることなんて、絶対にない。