最悪のタイミングだ。

 焦りと共に浅桜くんからのメッセージを期待しながらスマホを取り出すと、男性グループがぞろぞろと歩き始め、明らかにこちらへ向かって近づいてくる気配を感じた。


 ――えっ、うそ……こっちに来る! 逃げなきゃ!


 本能的に身の危険を感じて走り出そうとしたものの、わたしはすぐに思い止まる。

 今ここで突然走り出したら、逆に追いかけてこないだろうか。それに悪い人と決まったわけでもないのに逃げ出すだなんて、失礼かもしれない。

 いきなり走り出すことにこんなにも勇気がいるのかと思い知った瞬間、わたしは四人の男達に取り囲まれていた。


「こんなところでなにしてんのー?」


 ダボっとした黒いダウンを着て、にやにやと笑いながら口を開いた背の高い男。

 絵に描いたような人相の悪さ。間違いない。これは悪い人だ。

 なにしてるもなにも、家に帰ってるだけだし。と心の中で悪態をついてみるが、もちろん声には出さなかった。

 なんなんだこの人種は。耳にはずらりとピアスがぶら下がっていて、それを見るだけで悍ましい。

 スマホをポケットに仕舞い、視線を地面の落ち葉に向けて黙って通り過ぎようとしたが、体格のいい男達はすかさずわたしの前に立ち塞がってきた。


「おいおい待てよ」

「それなに持ってんの? 彼氏からのプレゼント?」


 首に絡み付くような蛇のタトゥーを入れている男。その怪しい風体に背筋がぞくりとして、恐怖が喉の奥からせりあがってくる。


「だめだねぇ、女の子がひとりでこんな暗いとこ通るなんて。なにかあっても知らないよぉ」


 ニット帽を深く被った男が、にたりと口角をあげて言った


 ――怖い……気持ち悪い……。だけど、声がでない……。


「あ……あ、の……」


 必死に抵抗を試みるが、あまりの恐怖に呂律がまわらない。カバンとスノードームを抱える腕に力をこめて涙を堪えていると、ふいに坊主頭の男に腕を掴まれた。


「なかなかいい女じゃん! よし決まりっ! ちょっと付き合えよ」


 掴まれた腕を強引に引かれてよろめくと、途端に頭がパニックになる。

 なんで……どうしてクリスマスなのに、こんな目に遭わなきゃいけないのだろう。わたしはなにも悪いことなんてしていないのに。

 ぎゅっと目をつむり掴まれた腕を振り払おうとするが、体格のいい男の握力に敵うはずもなく、わたしはその場にへたり込んだ。

 全身が粟立ち、突き抜けるような恐怖が体から力を奪い、この身をすくませる。


 ――もう、だめ……。


 これからわたしはどんな悲惨な目に遭うのだろう。そしてそれがいつまで続くのだろうか。それ以前に生きていられる保証さえないのかもしれない。
 頭の中を恐怖が支配して、心の中で強く叫んだ。


 ――誰か、助けて!


 その瞬間、冷たくまとわりつくような、それでいて優しくも心地良い感覚がわたしの身体を包み込んだ。