「優陽はビリヤードうまいんだな」
ビリヤード場をあとにすると、皆渡くんが感心するように言った。それに対して浅桜くんは謙遜する素振りを見せる。
「たまたまだよ。父親の店に台が置いてあるんだ」
「まじかよ。ならチートじゃねえか」
そういえば浅桜くんはお父さんのお店でアルバイトしてるんだっけ。どんなお店なんだろう。行ってみたいな。
「ヨーロッパ出身のお客さんのプレイを見て研究したんだ。あっちはビリヤードの本場だからね」
「家がカフェバーとかいいよなあ。それだけでなんかかっこいいじゃん」
「夜はいろんな人の話が聞けておもしろいよ。その人は普段ほとんど話さないんだけど、この前珍しく父さんと話しててさ。見た目は俺達とそう変わらないのに、俺と同い年の娘がいるんだって。びっくりしたよ」
それを聞いた皆渡くんが、突然わたしを見て口を開いた。
「外国人と言えばさ、そういや緋莉を助けてくれた人も――」
――まさか、だめっ、言わないで!
「皆渡くん、やめてっ!」
咄嗟に声が出た。同時に場が静まり返り、フロアに流れている音楽が鮮明になる。
どうしよう、明らかに不自然だ。皆渡くんを制止するためとはいえ、誰にでもわかるような大声。
だけど、緑地公園での事は浅桜くんには話していない。あのメッセージのすぐあとにわたしが危険な目に遭っていたと知ったら、優しい彼は自分を責めてしまうかもしれないから。