えっ、なにこれ近いっ! それに、手が当たってるんだけど!

 浅桜くんの手のひらに、わたしの手が包まれている。そう意識すると余計に手の甲から浅桜くんの熱が伝わってきて、手のひらに滲んだ汗がキューに染み込んでいく。


「親指と中指でキューを支えたら、他の指からは力を抜くんだよ」


 教えてもらってる立場なのに申し訳ないけれど、わたしは今それどころじゃない。


「いや、あの、けっこう難しいね、これ。あ……ははっ」


 わたし達の手はまだ重なっていて、体がかちこちに固まってしまう。

 絡まる指をひとつひとつ解くように触れる浅桜くんの指先は、細くて長くてとても綺麗。


「まだちょっと固いけど、とりあえずこれで打ってみようか」


 浅桜くんはそう言って離れると、わたしの隣でキューを構えた。ほっとした反面、ちょっと寂しい。


「こうやって脇をしめて、肘を支点に右腕をぶらぶらさせて……」


 キューをストロークさせている浅桜くんを真似るように、わたしも腕をぶらぶらさせる。けれど視線は浅桜くんのフォームではなく、思わずその横顔を捉えてしまう。


「そのままヘッドラインにある白球の真ん中を撞いてみて」

「う、うんっ!」


 横顔に見惚れていたことがばれていませんようにと祈りながら、急いで視線を白球に向け直した。