ビリヤード場へ入り空いている台を二組で一台ずつ確保すると、瑞花達は早速球を準備して、皆渡くんがブレイクショット(というらしい)をきめた。カコンと気持ちのいい音が響き渡り、台の上をゴロゴロと球が転がる。
「すごいなあ、皆渡くん……」
ぽつりと漏れた独り言。わたし達の台ではなにをどうすればいいかわからないわたしの代わりに、浅桜くんが黙々と準備をしてくれていた。
「それじゃ、ナインボールで実践しながら練習しようか」
そう言って、わたしにキューという球を撞くための長い棒を手渡してくれる。ナインボールってなんだろう……。
「まずは基本になるキューの握り方とブリッジの作り方だ」
浅桜くんの説明を受けながら長くて扱いにくいキューをたどたどしく構える。戸惑いながらも隣で瑞花が打っている体勢に近づいた気がした。
「いい感じだよ。あとは右手の力を抜いて……」
キューを持つわたしの手に浅桜くんが手を添える。その瞬間、今度こそ心臓が飛び出すくらいにどきんと跳ねた。