浅桜くんを待ちながら談笑している間、わたしはちらちらと視線を駅の出入口へと送っていた。そのせいかふたりの会話はあまり耳に入らない。

 うわのそらで相槌を打ち続けて約束の二分前になった頃、グレーのコートに身を包んだ浅桜くんが歩いてくるのが目に留まった。


「あっ、浅桜くん!」


 その瞬間、膨らんでいた胸のつかえがぱちんと弾けた気がした。思わず高らかと手を挙げて大きな声で呼びかけてしまい、咄嗟に両手で口を塞ぐ。振り返ると、瑞花と皆渡くんがニヤニヤと笑みを浮かべていた。


「いや、あの、えーと……」


 しどろもどろしているところに浅桜くんが到着して、小首を傾げる。


「待たせてごめん……って、あれ? どうかしたの?」


 頬が熱い。浅桜くんの顔をまともに見ることができない。


「べっつにー! おはよ浅桜くん。じゃあ行こっか」


 あたふたしていると瑞花が元気よくその場の空気を変えてくれた。自分の不甲斐なさに胸がもやっとする。