家に帰ると、お母さんに事故のことを話した。
「瑞花ちゃんは強い子なのね。でもそのあと、崩れそうになる彼女を支えてあげた緋莉もとても素敵よ。ふたり共立派だわ」
読んでいた本を閉じて目を細めるお母さん。お母さんはどんな些細なことでも、こんなふうにわたしを褒めてくれる。
「わたしも行かなきゃって思ったんだけど、血を見たら、なんだか気分が悪くなっちゃって。でも瑞花はすぐに現場に向かって走り出したんだよ。すごいよね」
「そうね。それで、緋莉は大丈夫だった? 体はなんともないの?」
なぜ今わたしの体を気遣ってくれるのだろう。何度も訊かれてはその度に、わたしが事故に遭ったんじゃないんだから、と説明を付け加えた。
「それはわかってるけど、あなたも現場に居たんでしょ? でもどこもおかしなところはないのね?」
その言葉に違和感を覚えながら、「わたしは大丈夫だよ」「平気だよ」とお母さんが安心する言葉をかけ続ける。
それでもしばらくの間、「気分はどう?」「頭は痛くない?」「喉に違和感はある?」と問診のようなやりとりが続いた。
まるでわたしが病人のように感じる、奇妙な時間だった。