いつの間にか隣にいた瑞花と、走り去っていく救急車を見送る。救急車が見えなくなり周りの人垣が徐々に離れていくと、お互い無言で駅まで歩き始めた。

 改札の前で瑞花が俯いて足をとめた。肩から下げたショッパーバッグを持つ手が震えている。

 あれほど凄惨な現場に立ち向かっていったのだから無理もない。わたしは瑞花の手に自分の手を重ねた。


「瑞花はすごいね。あの状況で冷静に対処できて」


 顔をあげた瑞花の瞳から、大粒の涙がこぼれた。

 きっと瑞花も不安だったのだ。

 瑞花は将来看護師を目指している。だが医療従事者を志しているといっても、わたし達はまだ高校生だ。実際瑞花がしていたのは、処置をしている人達の横で男の子に声をかける。それだけだった。


「でも、わたし、なにもできなかった……」


 瑞花の目は地に吸い込まれるように、一点を見つめていた。


「なに言ってんの! あそこで駆けよれること自体がすごいんだから。きっと瑞花は立派な看護師になれるよ」


 野次馬にしかなれなかったわたしに比べると、瑞花のほうがよっぽど立派だと思う。けれど、瑞花がそれを認められないのは、向上心がある証だ。


「緋莉ぃ……あの子大丈夫かな? きっと助かるよね?」


 瑞花が弱々しい声を漏らす。そのまま顔をくしゃくしゃにしてわたしに抱きついてきた。

 改札の前、たくさんの人が抱き合うわたし達にちらちらと視線を送っている。けれど誰の視線も構わずに、わたし達はそのまま抱き合い続けていた。