それからしばらくして注文した飲み物が運ばれてくると、早速カップに盛られているホイップクリームをスプーンですくって口に運んだ。とろりとした感触が舌の上に転がりクリームの甘さが口いっぱいに広がる。

 すると、ふいにいつかの口当たりがよくて甘い味わいが頭の中に甦った。でもそれが、いつどこでなにを口にして得た感覚なのかが思いだせない。

 考えこんでいると、瑞花が「おーい」とわたしの顔の前で手をひらひらと揺らせた。


「あぁ、ごめん。少し前に行ったお店……かな。ちょっと思い出せなくて」

「なんだ、そんなことか。また浅桜くんに想いを馳せてたのかと思ったよ」

「もう! またってなによ! ……って、あれ?」


 机に肘をつき両手に顎をのせてくすくすと笑う瑞花の首元で、ネックレスのトップがきらりと光る。


「瑞花……。そのネックレス、どうしたの?」

「んっ? これ?」


 瑞花がネックレスのチェーンを片手でつまんで、軽く持ち上げた。


「見せなくていいからっ!」


 なぜか全身をぞくりとした感覚が襲い、思わず大きな声がでた。周りの視線がわたし達のテーブルに集中する。


「ど、どうしたの? 急に」

「いや、その……胸元! そう、胸元が見えちゃうと思って」


 その言葉で訝しげな顔をしていた瑞花の顔が綻んだ。


「あぁ、そういうこと。大丈夫だよ。セーターだし見えるわけないじゃん」


 あははと笑う瑞花を見て、とりあえずわたしも安堵する。


「ごめんね、急に大きな声出して。恥ずかしかったね」

「そんなの平気だよ。これね、クリスマスに皆渡くんがくれたの。センスないよねー」

「そ、そうだね。女の子にはちょっと……ね」


 ごまかすようにそう返すと、わたしは視線を瑞花の首元から外して、急いでココアをすすった。


 キャラメルラテのカップを持ち上げた瑞花の首元で、

 十字架のネックレストップが妖しく光っているように見えて、

 わたしはまた慌てて目を逸らした。