お父さんのいない、いつも通りの年末。テレビ画面からは、年末特番の歌番組で盛り上がる会場が映し出されている。


 家族、か……。


 わたしにお父さんはいないけれど、寂しいと思うことはあまりない。

 お父さんの遺産のおかげで、こうしてお母さんと何不自由なく暮らすことができている。それだけで、わたしは十分恵まれているだろう。

 何気ない日々の幸せを噛み締めながら、わたしは赤いお肉を次々と口に運んだ。

 歌番組が終わると、世界中のカウントダウンの様子が流れ始めた。

 遠い異国に想いを馳せたまま、どこかで鳴っている除夜の鐘が微かに耳に届くと、わたしは今までと変わらない新年を迎えた。


「お母さん、新年おめでとう」


 どこか上の空のお母さんに伝える。


「あ……そ、そうね」


 急に声を掛けられて驚いたのか、お母さんは一瞬辺りを見渡すように首を左右にふった。


「あけましておめでとう、緋莉。今年もよろしくね」


 栗色の長い髪を揺らせながら、にこりと笑ってそう言ってくれたお母さんの口数は、いつもより少なかったように思えた。