「今、なんて……?」
かろうじて聞き取れた、掠れるような小さな声。
「ごめんなさい。次会った時はちゃんと聞いとくから」
「そうじゃなくて……髪……、銀髪、だったの?」
なにをそんなに驚いているのだろう? 最近は日本でも奇抜なカラーのヘアスタイルが流行っているし、髪の色自体は見慣れてしまえばどうということはない。
「う、うん、いろんな国の血が混ざってるって言ってた。お母さんもしかして知ってる人……とかじゃないよね?」
お母さんは体を小刻みに震わせている。
「その人が四本……バラをくれたのね?」
お母さんはわたしの質問には答えずに、なぜかうっすらと涙を浮かべて「……死ぬまで変わらぬ愛」と呟いた。
「あの、一応言っとくけど、ルカさんはきっと犯人じゃないよ」
娘が知らない男達に乱暴されそうになって、その加害者達が殺されているのだから、助けてくれたルカさんを疑うのは無理もない。だけど、ルカさんは犯人じゃない。
「その人、今どこに住んでるの?」
まさか、警察に通報したりしないよね。
「それも、つい訊きそびれちゃって。わたしも改めてちゃんとお礼したいんだけど」
「そうね……できれば一度、家にお招きしましょう」
よかった、疑ってるわけじゃないみたい。
「うん、また会えたら伝えとく。ねえお母さん、このバラ一本だけ部屋に持っていってもいい?」
「え? あぁ……もちろんいいわよ。好きな場所に飾りなさい」
「うん、ありがとう」
早速一輪グラスに差してわたしの部屋のローテーブルに置くと、残りのバラは食卓に飾った。