「大丈夫だよ。偶然通りかかった人が助けてくれたの。このバラは、さっきたまたまその人に会って貰ったんだ」
「そうだったのね。その人も緋莉も無事でよかったわ。どんな人なの?」
「ルカさんっていうハーフの人だよ。探し物のために外国から冬咲市に来てるんだって」
「ル……カ……? ラテン語で光……」
「ルカって光って意味なの?」
「ええ、素敵な名前ね」
「そうだね。あ、今まで黙っててごめんね、お母さん」
お母さんは首を横に小さく振ると、わたしの腕を掴む手を緩めた。
「いいのよ。でも、夜は暗いとこ通っちゃだめって言ったでしょ?」
「うん……ごめんなさい」
「次からは気をつけてね。それで、助けてくれたルカさんとはどうなってるの? あんな事件が起きたあとだし、その人からも事情を聞きたいわ」
お母さんは少しだけほっとしたように息を吐いて、再びトングを手に取り料理の盛り付けを始めた。
「それが、連絡先を聞きそびれちゃって……。銀髪で少し目が紅い男の人なんだけどね。見た目は暗い感じでちょっと怖いけど、優しい人だよ」
「え……?」
そう伝えると、お母さんは驚いたように目を丸くし始めた。トングが床に落ちる音が響く。