魔女はまた鍋を煮詰めすぎて肉を焦がした。
 たまの肉なのに、焦げた味すら分からない。
 こどもはうつむいて、ひたすらアゴを動かす。

 足もとで、犬がスープをなめながら、こどもを見上げる。
 魔女は頬杖をついて、こどもの前髪をかきあげた。

「元気がないね?」
「げんきだよ」

 笑みをはりつけたものの、ベッドの下の壊れたハチドリを思うと、耳の裏がピリピリ痛くなる。

 どうせ、失せものの河を流れてきた鳥だ。
 こどもが拾わなければ、あのまま、その先の“お終い”へ消えてゆくはずだった。

(だから、そんなに悪いことをしたワケじゃないよ)

 いつまでたっても噛みきれない肉を、口のなかで持てあます。

「そうだ。おまえたち、ハチドリを知らないかい? さっきから姿がみえなくてね」
「しらない!」

 こどもの大声に、犬が驚いて耳を立てる。

「……なら、さっき窓を開けたときに、飛んでいってしまったのかね。まだ直りきってなかったのに、無事に還れればよいけれど」
 魔女は窓の外の霧に、寂しい瞳をする。

 こどもは椅子からおり、魔女のと自分のと犬のうつわを河辺へ運んだ。
 水のなかで適当にゆさぶって洗う。

 今日はごうごうと、やけに河がやかましく唸っている。