「骨の髄まで従者だね」

 所長さんが執務机に頬杖をつき、唇の端を上げた。この部屋に入ってから、一貫して余裕を崩さない姿に威圧される。

「従者……そういえば、土蜘蛛の紫苑もお前を美鈴の従者や言うとったな。どういうこっちゃ?」

 はたから見ると、私たちがそういう関係に映るのかもしれない。

そう考えていたけれど、出会って間もないのに、私たちの関係性をまず『主従関係』だと表するほうが稀だ。

 ここ最近のタマくんらしくない言動や態度も合わさって、彼はなにかを隠している。そう思わざるを得なかった。

「タマくん……」

 その内になにを秘めているのだろう。私相手でも、話せないことなの?

 そんな私の疑心をタマくんは見抜いたのか、ため息をつく。

「……ここで俺がなにも話さなかったら、美鈴はどんどんお前たちに懐柔されるからな。今言える真実だけは、きみに伝えるよ」

「真実……?」

「そう、俺は猫又の姫に仕えていた猫又。ついでに言うと猫憑きじゃなくて正真正銘、猫又のあやかしだ」

 タマくんが……人間じゃなくて、あやかし……?

 まだ、冗談だと思おうとしている自分がいる。だって、子供の頃からそばにいて、同じ小学校、中学、高校に通った。

大人になってからもずっと仲がよくて、職場まで同じにした幼馴染だ。それが人間じゃなくてあやかしだったと聞かされて、誰が信じられるというのか。

「タマくんは私と一緒に育ったでしょ? 子供の頃のタマくんも、大人になったタマくんも見てきた! なのに、あやかしだなんて……突拍子もなさすぎるっていうか……」

「俺は子供にも大人にも化けられる。きみの成長に合わせて、俺も化けていただけだ。きみのそばにいるためには、そうするしかなかったから」

「そ、それじゃあ本当にタマくんはあやかしなんだ……」

 タマくんとは長い付き合いだ。彼が冗談を言っているのか、そうじゃないのかくらい見抜けるくらいには。

 思い返してみれば、タマくんはあやかしを擁護することが多かった。

陰陽師である光明さんに対して、初めから当たりも強かったし、本当は私が気づかないふりをしていただけで、タマくんの変化に疾っくの疾うに感づいていたのだ。

「俺は姫が……きみが生まれ変わる時をずっと待っていたんだ。何年もの間、きみの魂を探し続けて、ついに猫憑きがいるっていう猫井家に辿り着いた。そこできみを見つけて、ずっと見守ってきた」

 タマくんは縋るような目をして、私に手を差し伸べる。

「今度こそ、きみを守りきるって決めたんだ。人間なんかに封印させられて、たまるものか」

 前世の私が死んでから、ずっと待ち続けてくれていた。それも途方もない時間をだ。

「美鈴、俺と一緒に来て」

「……っ、タマくん……」

 タマくんなら、きっと私をひとりにしない。

だけど、この手を取ったら私はどこへ連れていかれるの?

 タマくんと一緒に向かった先に待つ未来に、希望を見出せないのはなぜなのか。