「お前を否定した人間への憎しみや悲しみにばっかり囚われな。今はお前が幸せに生きられる未来のために、なにを許して信じるのか、それだけに目ぇ向けて歩いていったらええ」
目の前まで来た光明さんは額に汗をかきながら、上がらないはずの腕を無理やり上げて、私を抱きしめる。
「光明さん……なんで、動けるの? ううん、そんなことより……私から離れて。近づかないほうがいい……」
「なんで?」
「なんでって、私は本当に……化け物、だったから……っ」
「耳と尻尾があるから化け物なのか? 力のせいか?」
「そうだよ、なんでそんな当たり前のこと聞くの……?」
「なら、俺も化け物やな」
「え……?」
どうしてそこで、光明さんが化け物ってことになるの?
意味がわからず目を瞬かせていたら、光明さんは口元を緩めた。
「お前の言う化け物の基準が、姿形や能力が人とちゃうって意味なら、俺も当てはまるってこっちゃ。陰陽術なんて普通の人間には使えへん。おまけに式神まで生み出せるんやで。俺も化け物ちゃうか?」
「でも、光明さんは人を襲わないでしょう?」
「お前だって、望んで力を使うたわけちゃうやろ。それに俺らはあやかしを問答無用で滅しとった。あやかしたちより非道で、化け物やった思う。ほんまの化け物は目的のために相手を平気で利用して自分を守ろうとしたり、誰かを傷つけることに心痛まへんやつのこと言うんや」
最初は否定していたはずの光明さんの言葉が、じわじわと私の中に染み入ってくる。黒く染まった心を漂白されていくようだった。
「でも私……力を使うと、疲れるどころか力が湧いてくるの。こんなの人間じゃない、このまま力が暴走して、化け物になっちゃうかもしれないっ」
「あやかしになろうが、人間になろうが、美鈴は美鈴だ。化け物にはならへん。もしお前が暴走したら、俺が止めたる。そやさかい、安心しーな」
光明さんは私の髪をさすり、印を切って呪文を唱え始めた。私の妖力が引いていくにつれ、吹き荒れていた風も収まっていく。
完全に妖力が私の中に戻ると、魔性の瞳の力も解ける。
精神的な疲労がどっと押し寄せてきて、私は光明さんに寄りかかるように、その場に座り込んだ。
「身体、どっかしんどいか?」
「ううん……でも、気持ちが疲れちゃって……」
「そうか、せやったらそのまま休んどったらええ。連れ帰ったるさかい」
光明さんが私の背をさすっていると、すっと前にタマくんが現れた。
「美鈴、まだ人間を信じるのか? また傷つくのが目に見えてるのに」
「タマくん……光明さんなら、大丈夫だよ。私が何者でも、私は私だって言ってくれたから」
「この先、その考えが変わらないとは言い切れないだろ」
噛みつかんばかり顔つきで、タマくんは私だけを見ていた。他の人間など、視界にすら入れたくないとばかりに。
目の前まで来た光明さんは額に汗をかきながら、上がらないはずの腕を無理やり上げて、私を抱きしめる。
「光明さん……なんで、動けるの? ううん、そんなことより……私から離れて。近づかないほうがいい……」
「なんで?」
「なんでって、私は本当に……化け物、だったから……っ」
「耳と尻尾があるから化け物なのか? 力のせいか?」
「そうだよ、なんでそんな当たり前のこと聞くの……?」
「なら、俺も化け物やな」
「え……?」
どうしてそこで、光明さんが化け物ってことになるの?
意味がわからず目を瞬かせていたら、光明さんは口元を緩めた。
「お前の言う化け物の基準が、姿形や能力が人とちゃうって意味なら、俺も当てはまるってこっちゃ。陰陽術なんて普通の人間には使えへん。おまけに式神まで生み出せるんやで。俺も化け物ちゃうか?」
「でも、光明さんは人を襲わないでしょう?」
「お前だって、望んで力を使うたわけちゃうやろ。それに俺らはあやかしを問答無用で滅しとった。あやかしたちより非道で、化け物やった思う。ほんまの化け物は目的のために相手を平気で利用して自分を守ろうとしたり、誰かを傷つけることに心痛まへんやつのこと言うんや」
最初は否定していたはずの光明さんの言葉が、じわじわと私の中に染み入ってくる。黒く染まった心を漂白されていくようだった。
「でも私……力を使うと、疲れるどころか力が湧いてくるの。こんなの人間じゃない、このまま力が暴走して、化け物になっちゃうかもしれないっ」
「あやかしになろうが、人間になろうが、美鈴は美鈴だ。化け物にはならへん。もしお前が暴走したら、俺が止めたる。そやさかい、安心しーな」
光明さんは私の髪をさすり、印を切って呪文を唱え始めた。私の妖力が引いていくにつれ、吹き荒れていた風も収まっていく。
完全に妖力が私の中に戻ると、魔性の瞳の力も解ける。
精神的な疲労がどっと押し寄せてきて、私は光明さんに寄りかかるように、その場に座り込んだ。
「身体、どっかしんどいか?」
「ううん……でも、気持ちが疲れちゃって……」
「そうか、せやったらそのまま休んどったらええ。連れ帰ったるさかい」
光明さんが私の背をさすっていると、すっと前にタマくんが現れた。
「美鈴、まだ人間を信じるのか? また傷つくのが目に見えてるのに」
「タマくん……光明さんなら、大丈夫だよ。私が何者でも、私は私だって言ってくれたから」
「この先、その考えが変わらないとは言い切れないだろ」
噛みつかんばかり顔つきで、タマくんは私だけを見ていた。他の人間など、視界にすら入れたくないとばかりに。