「これでわかっただろ、陰陽師はきみの敵だ」
ソファーに座って、ずっと黙っていたタマくんが気の毒そうに私を見上げた。
「俺たちの居場所はどこにもない。どんなに人間らしく振る舞っても、社会の中には溶け込めないし、人間とあやかしって壁は壊せないんだよ」
「そうかも……しれないね……」
こんなにもわかり合えないのなら、私はどこへ行けばいい? 誰といれば、この孤独は満たされる?
ああ、ダメだ。心が迷えば、私の中の妖力もまた行き場を失くして放流する。
「美鈴、そんなんあらへん。お前が俺に教えてくれたんやろ? あやかしは人と変わらへんって。そやさかい俺も、あやかしを理解しようと思えた。過去に向き合えたんや」
そうだ、だから光明さんは敵である土蜘蛛と手を取り合った。光明さんのようにあやかしへの理解を深めてくれる人もいる、それを忘れていた。
「騙されちゃダメだ、美鈴。陰陽師はすぐに心変わりする。腐った根が元通りにならないように、陰陽師の『あやかしは敵』っていう偏った価値観は変わらない」
タマくんの言ってることも正しい。またあやかしが人間を傷つけたら、光明さんだって心変わりするかも……。ああ、私はなにを信じたらいいの?
「魚谷……お前は誰の味方なんや。美鈴がこないなふうになるまで、なんで黙って見とった」
「前にも言ったはずだ。俺はいつでも美鈴のために動いてるって。わかり合えるなんて幻想は早くに打ち砕いて、現実を見たほうが傷が浅くて済む」
信じて裏切られるのは、もうたくさん。両親から愛されるのに必死だった頃、私はいい子で愛想がよくて、そういう偽物の自分を演じて毎日が息苦しかった。
侮蔑の目に耐え続けて媚びても、私は事実として両親に捨てられた。受け入れられることを期待するだけ無駄……。
「願うことやめたら、期待することやめたら、未来を描けへんくなる」
闇に堕ちそうになる心を、光明さんの言葉がすんでのところで引き留めた。
光明さんは動きを封じられているはずなのに、「いいか、美鈴……っ」と私の名前を呼びながら、自由の効かない足を力づくで前に出す。
「お前は……っ、憎しみに囚われず、未来のために生きろ言うた。お前にも、おんなじ言葉をかけたる」
拘束に抗い、近づいてくる光明さん。妖気を孕んだ風が、容赦なく光明さんの頬や腕を切り裂いていく。
「お願い……来ないで……」
心の内側すら暴いてしまいそうなまっすぐな瞳に見つめられ、私は後ずさった。
「光明さんが、怪我しちゃう……っ」
私が止めても、光明さんは苦しげに息を吐きながら、距離を着実に縮めてくる。
ソファーに座って、ずっと黙っていたタマくんが気の毒そうに私を見上げた。
「俺たちの居場所はどこにもない。どんなに人間らしく振る舞っても、社会の中には溶け込めないし、人間とあやかしって壁は壊せないんだよ」
「そうかも……しれないね……」
こんなにもわかり合えないのなら、私はどこへ行けばいい? 誰といれば、この孤独は満たされる?
ああ、ダメだ。心が迷えば、私の中の妖力もまた行き場を失くして放流する。
「美鈴、そんなんあらへん。お前が俺に教えてくれたんやろ? あやかしは人と変わらへんって。そやさかい俺も、あやかしを理解しようと思えた。過去に向き合えたんや」
そうだ、だから光明さんは敵である土蜘蛛と手を取り合った。光明さんのようにあやかしへの理解を深めてくれる人もいる、それを忘れていた。
「騙されちゃダメだ、美鈴。陰陽師はすぐに心変わりする。腐った根が元通りにならないように、陰陽師の『あやかしは敵』っていう偏った価値観は変わらない」
タマくんの言ってることも正しい。またあやかしが人間を傷つけたら、光明さんだって心変わりするかも……。ああ、私はなにを信じたらいいの?
「魚谷……お前は誰の味方なんや。美鈴がこないなふうになるまで、なんで黙って見とった」
「前にも言ったはずだ。俺はいつでも美鈴のために動いてるって。わかり合えるなんて幻想は早くに打ち砕いて、現実を見たほうが傷が浅くて済む」
信じて裏切られるのは、もうたくさん。両親から愛されるのに必死だった頃、私はいい子で愛想がよくて、そういう偽物の自分を演じて毎日が息苦しかった。
侮蔑の目に耐え続けて媚びても、私は事実として両親に捨てられた。受け入れられることを期待するだけ無駄……。
「願うことやめたら、期待することやめたら、未来を描けへんくなる」
闇に堕ちそうになる心を、光明さんの言葉がすんでのところで引き留めた。
光明さんは動きを封じられているはずなのに、「いいか、美鈴……っ」と私の名前を呼びながら、自由の効かない足を力づくで前に出す。
「お前は……っ、憎しみに囚われず、未来のために生きろ言うた。お前にも、おんなじ言葉をかけたる」
拘束に抗い、近づいてくる光明さん。妖気を孕んだ風が、容赦なく光明さんの頬や腕を切り裂いていく。
「お願い……来ないで……」
心の内側すら暴いてしまいそうなまっすぐな瞳に見つめられ、私は後ずさった。
「光明さんが、怪我しちゃう……っ」
私が止めても、光明さんは苦しげに息を吐きながら、距離を着実に縮めてくる。