「中へは猫井さんと魚谷さんだけで、お願いします」
「なんでだ、このふたりは俺の保護下にあるんやで」
「光明、所長命令だ」
「そやけど……! くっ……」
所長命令は絶対なのか、光明さんはそれ以上の反論を飲み込んだように見えた。舌打ちをして私に向き直るや、腕を掴んでくる。
「ええか、なんかあったら大声で叫べ。俺は陰陽師やけど、お前を傷つけへん。わかるな?」
念を押す光明さんからは、並々ならぬ緊張感が伝わってきた。
「光明さん……うん、わかった」
深く頷くと、隣にタマくんが並ぶ。
「なんでタマくんも一緒に……なんだろうね? 問題を起こしたのは私なのに」
「その答えは、入ったらわかるだろ。行こう、美鈴」
「う、うん……」
堂々と扉を開けるタマくんに続き、所長室へ足を踏み入れた。
執務机に向かって座っている所長さんが、「やあ」と片手をひらひらと振ってくる。
「わざわざ悪いね。そこに腰かけて」
促されるままに、私とタマくんは黒革のソファーに座った。
江永さんは扉のそばに控えている。張りつめた空気が部屋中に満ちていた。
「呼び出された理由は……まあ、なんとなく察してるね?」
「……はい……商店街で、力を使ったこと……ですよね。本当にごめんなさいっ、でも、あれは私が勝手にしたことで、光明さんはなにも悪くな──」
早口で捲し立てるように弁解すれば、所長さんがすっと手を挙げ、私を制した。
「私は光明を罰しようとは思っていないよ」
「なら──」
私を罰するために、ここに呼び出したのだろうか。ごくりと唾を飲み込み、私は所長さんの言葉を待つ。
「……きみの力のことは、その場に居合わせた陰陽師から聞いている。きみは人を従わせられるらしいね」
所長さんの眼光が鋭くなった気がして、心臓がバクバクと大きく音を立て始めた。
「──魔性の瞳」
「……! ご存じなんですか?」
「気分を悪くしたら申し訳ないね。あやかし憑きが光明と行動するのは少し心配だったから、今までずっと式に見張らせていたんだ。そこで、きみたちが話しているのを聞いた」
ああ……私が光明さんになにかするかもって、所長さんはそう思ったんだ。忘れていた、自分が畏怖の対象であることを。
「報告によれば、今まで魔性の瞳を発動したあとは倒れていたとか」
「あ……はい。でも、京都で美琴……前世の私に力を解放されてからは、魔性の瞳を使っても疲れないんです。それどころか、気持ちが不安定だと無意識に力を使ってしまうこともあって……」
自分の身体を両腕で抱きしめる。
江永さんが「お茶でもお持ちしましょう」と声をかけてくれたのだが、首を横に振って断った。お茶だろうと、喉を通りそうにない。
「なんでだ、このふたりは俺の保護下にあるんやで」
「光明、所長命令だ」
「そやけど……! くっ……」
所長命令は絶対なのか、光明さんはそれ以上の反論を飲み込んだように見えた。舌打ちをして私に向き直るや、腕を掴んでくる。
「ええか、なんかあったら大声で叫べ。俺は陰陽師やけど、お前を傷つけへん。わかるな?」
念を押す光明さんからは、並々ならぬ緊張感が伝わってきた。
「光明さん……うん、わかった」
深く頷くと、隣にタマくんが並ぶ。
「なんでタマくんも一緒に……なんだろうね? 問題を起こしたのは私なのに」
「その答えは、入ったらわかるだろ。行こう、美鈴」
「う、うん……」
堂々と扉を開けるタマくんに続き、所長室へ足を踏み入れた。
執務机に向かって座っている所長さんが、「やあ」と片手をひらひらと振ってくる。
「わざわざ悪いね。そこに腰かけて」
促されるままに、私とタマくんは黒革のソファーに座った。
江永さんは扉のそばに控えている。張りつめた空気が部屋中に満ちていた。
「呼び出された理由は……まあ、なんとなく察してるね?」
「……はい……商店街で、力を使ったこと……ですよね。本当にごめんなさいっ、でも、あれは私が勝手にしたことで、光明さんはなにも悪くな──」
早口で捲し立てるように弁解すれば、所長さんがすっと手を挙げ、私を制した。
「私は光明を罰しようとは思っていないよ」
「なら──」
私を罰するために、ここに呼び出したのだろうか。ごくりと唾を飲み込み、私は所長さんの言葉を待つ。
「……きみの力のことは、その場に居合わせた陰陽師から聞いている。きみは人を従わせられるらしいね」
所長さんの眼光が鋭くなった気がして、心臓がバクバクと大きく音を立て始めた。
「──魔性の瞳」
「……! ご存じなんですか?」
「気分を悪くしたら申し訳ないね。あやかし憑きが光明と行動するのは少し心配だったから、今までずっと式に見張らせていたんだ。そこで、きみたちが話しているのを聞いた」
ああ……私が光明さんになにかするかもって、所長さんはそう思ったんだ。忘れていた、自分が畏怖の対象であることを。
「報告によれば、今まで魔性の瞳を発動したあとは倒れていたとか」
「あ……はい。でも、京都で美琴……前世の私に力を解放されてからは、魔性の瞳を使っても疲れないんです。それどころか、気持ちが不安定だと無意識に力を使ってしまうこともあって……」
自分の身体を両腕で抱きしめる。
江永さんが「お茶でもお持ちしましょう」と声をかけてくれたのだが、首を横に振って断った。お茶だろうと、喉を通りそうにない。