「今は美鈴か? あの、美琴やらいう前世のお前ちゃうな?」
「ち、違う……最初から、私だった……! けど、あの人たちの言葉にムカついて、そうしたら心の中がぐちゃぐちゃになって……。気づいたら、力を使ってた……」
「力、コントロールできひんようになってるってことか?」
そうなのかもしれない。意識しなくても、息をするみたいに自然に力を使っていた。
「無意識だったの……力を使っても、前みたいに疲れないし……。光明さん、私……自分が怖い」
光明さんの腕をぎゅっと掴む。
私が震えているのに気づいてか、光明さんは私の手の甲に自分の手を重ねて、ゆっくり諭すように言う。
「大丈夫や、もしコントロールできひんようになっても、俺が止めたるさかい」
「……光明さん……」
「俺ほどの陰陽師がなんとかしたるって言うてるんや、まだ不安か? 欲張りなやつやな」
悪態をつくくせに、優しい顔で笑うんだから……。
素直じゃない光明さんの励ましは、私の心を静めてくれる。おかげで気持ちが落ち着いてきた。
「不安じゃない……光明さんを信じてるから」
「よし、なら早うここを離れるで。目立ってるさかいな」
私の手を引いて光明さんが歩き出すと、背後から「このことは所長に報告させてもらいますよ!」と同僚の負け惜しみが飛んでくる。
光明さんはそのまま無視して歩いていたが、私のせいで光明さんに迷惑がかかるようなことがあったらと思うと、気が気じゃなかった。
***
数日後──。
「姫様、オラのせいでごめんなさいですポン……」
「ポン助のせいじゃないよ。これは私が起こした問題のせいだから……」
しょんぼり俯いているポン助に笑みを返す。
おそらくこの間の一件が原因で、私は光明さんとともに所長さんから呼び出しを食らってしまったのだ。
心配そうにしている赤珠と水珠にも見送られ、私はタマくんと光明さんと一緒に陰陽寮へ向かった。
「なんや、今日は喰迷門は断固拒否!って騒がへんのか」
「え……? あ、ああ……そんな気分じゃないよ。私のせいで、光明さんまで怒られちゃうかもしれないのに……」
「この世の不幸を全部背負うてる、みたいな顔しなや」
むにっと頬を引っ張られ、「いひゃい」と目で不服を訴える。だけど、内心はうれしかった。
光明さんとくだらないお喋りをしているうちは、好奇の視線も気にならない。
「あれが猫憑きの……」「所長直々の呼び出しらしいぞ」という噂話も忘れられる。
後ろをちらりと見やれば、無言のままタマくんがついてきていた。
タマくんも、ここに来るまでずっと黙ったままだ。ううん、もっと前……京都の土蜘蛛騒ぎがあった頃から、よそよそしい。
少しずつ、私の日常が壊れている。その分、光明さんへの想いに気づけたり、新しい縁に恵まれたり、得たものもあった。
光明さんと出会ってから起きたこの変化は、どこへ繋がっているのだろう。幸福の始まりか、それとも絶望への幕開けか……。
心に忍び寄る不穏な影に、胃の辺りが絞られるのを感じながら、私たちは所長室の前に辿り着いた。
光明さんが扉をノックすると、補佐役の江永さんが出てくる。
「ち、違う……最初から、私だった……! けど、あの人たちの言葉にムカついて、そうしたら心の中がぐちゃぐちゃになって……。気づいたら、力を使ってた……」
「力、コントロールできひんようになってるってことか?」
そうなのかもしれない。意識しなくても、息をするみたいに自然に力を使っていた。
「無意識だったの……力を使っても、前みたいに疲れないし……。光明さん、私……自分が怖い」
光明さんの腕をぎゅっと掴む。
私が震えているのに気づいてか、光明さんは私の手の甲に自分の手を重ねて、ゆっくり諭すように言う。
「大丈夫や、もしコントロールできひんようになっても、俺が止めたるさかい」
「……光明さん……」
「俺ほどの陰陽師がなんとかしたるって言うてるんや、まだ不安か? 欲張りなやつやな」
悪態をつくくせに、優しい顔で笑うんだから……。
素直じゃない光明さんの励ましは、私の心を静めてくれる。おかげで気持ちが落ち着いてきた。
「不安じゃない……光明さんを信じてるから」
「よし、なら早うここを離れるで。目立ってるさかいな」
私の手を引いて光明さんが歩き出すと、背後から「このことは所長に報告させてもらいますよ!」と同僚の負け惜しみが飛んでくる。
光明さんはそのまま無視して歩いていたが、私のせいで光明さんに迷惑がかかるようなことがあったらと思うと、気が気じゃなかった。
***
数日後──。
「姫様、オラのせいでごめんなさいですポン……」
「ポン助のせいじゃないよ。これは私が起こした問題のせいだから……」
しょんぼり俯いているポン助に笑みを返す。
おそらくこの間の一件が原因で、私は光明さんとともに所長さんから呼び出しを食らってしまったのだ。
心配そうにしている赤珠と水珠にも見送られ、私はタマくんと光明さんと一緒に陰陽寮へ向かった。
「なんや、今日は喰迷門は断固拒否!って騒がへんのか」
「え……? あ、ああ……そんな気分じゃないよ。私のせいで、光明さんまで怒られちゃうかもしれないのに……」
「この世の不幸を全部背負うてる、みたいな顔しなや」
むにっと頬を引っ張られ、「いひゃい」と目で不服を訴える。だけど、内心はうれしかった。
光明さんとくだらないお喋りをしているうちは、好奇の視線も気にならない。
「あれが猫憑きの……」「所長直々の呼び出しらしいぞ」という噂話も忘れられる。
後ろをちらりと見やれば、無言のままタマくんがついてきていた。
タマくんも、ここに来るまでずっと黙ったままだ。ううん、もっと前……京都の土蜘蛛騒ぎがあった頃から、よそよそしい。
少しずつ、私の日常が壊れている。その分、光明さんへの想いに気づけたり、新しい縁に恵まれたり、得たものもあった。
光明さんと出会ってから起きたこの変化は、どこへ繋がっているのだろう。幸福の始まりか、それとも絶望への幕開けか……。
心に忍び寄る不穏な影に、胃の辺りが絞られるのを感じながら、私たちは所長室の前に辿り着いた。
光明さんが扉をノックすると、補佐役の江永さんが出てくる。