「……あやかしをただ閉じ込めとくだけじゃ、なんの学びにもならへん。あやかしには人間の暮らしについて知ってもろうて、問題を起こさへんように指導するのも陰陽師の仕事や」
「それはあやかし側に立った人間のセリフですね」
あやかし側? 光明さんはあやかしと人がうまく付き合って生きていくために、最善だと思ったことをしているだけだ。
「その意見こそ、人間側に立ったセリフだと思いますけど」
カッとなって、つい言い返してしまう私の肩に、光明さんが手を載せた。
「言わせておいて構へん。俺らはずっとあやかしを敵や思て生きてきたんや。すぐに理解されるとは思てへん」
「でも、それだけじゃなくて……。この人たち、最初から光明さんに嫌な態度をとってた」
好きな人のことを悪く言われるのは、どうしたって気持ちがささくれ立つ。いつもなら笑ってごまかせるのに、感情を抑えきれない。
光明さんの同僚たちは「俺たちがいつそんな態度をとった?」と嫌悪を露わにした。
早く謝らなきゃ、光明さんにも角が立つ。だけど思考に反して、心が言うことを聞かない。
「あなたたちは身勝手だよ。光明さんを妬んでるからって、光明さんを責める理由ばかりを探して……。そして、ポン助のことをそのきっかけに使おうとした」
怒りに共鳴して、私の中の妖力が高ぶる。力の波動で、私の髪や服が波立つようにふわふわと揺れた。
陰陽師たちは「なにをする気だ!」と後ずさる。商店街にいた人たちも、何事だと遠巻きに私たちを見物していた。
「美鈴、落ち着くんや。注目を浴び過ぎれば、お前がけったいな目で見られるんやで。ほら、帰るで」
光明さんが私の腕を引いて、その場から遠ざけようとするが、私の足は頑としてそこから動こうとしない。
なにも言わずに立ち止まったままの私に、光明さんは「美鈴?」と顔を覗き込んでくる。
でも私は、光明さんを押しのけて陰陽師たちの前まで歩いて行き……。
「──ひれ伏せ」
そのひと言で、ふたりはガクンッと膝をついた。
勝手に土下座しようとする身体をなんとか腕を突っ張って堪えているが、彼らの腕はプルプルと震えている。
やがて「なんでだ」「身体が勝手に……っ」と額を地面に擦りつけた。
「──謝罪を」
私の支配下に置かれたふたりは、不本意だと書かれた顔で「申し訳ありませんでした」と謝罪した。
周りにいた子供が「あの人、目の色が変」と私を指差す。
はっと我に返ると、その母親らしき女性が「静かに!」と子供を連れてそそくさと逃げていくのが見えた。
私が向けられているのは、間違いなく畏怖と奇異の眼差し。
「あ……ああ、どうしよう……私、なんでこんなことを……」
手足がカタカタと震え出す。すぐに光明さんが駆け寄ってきて、私の肩を掴んだ。
「それはあやかし側に立った人間のセリフですね」
あやかし側? 光明さんはあやかしと人がうまく付き合って生きていくために、最善だと思ったことをしているだけだ。
「その意見こそ、人間側に立ったセリフだと思いますけど」
カッとなって、つい言い返してしまう私の肩に、光明さんが手を載せた。
「言わせておいて構へん。俺らはずっとあやかしを敵や思て生きてきたんや。すぐに理解されるとは思てへん」
「でも、それだけじゃなくて……。この人たち、最初から光明さんに嫌な態度をとってた」
好きな人のことを悪く言われるのは、どうしたって気持ちがささくれ立つ。いつもなら笑ってごまかせるのに、感情を抑えきれない。
光明さんの同僚たちは「俺たちがいつそんな態度をとった?」と嫌悪を露わにした。
早く謝らなきゃ、光明さんにも角が立つ。だけど思考に反して、心が言うことを聞かない。
「あなたたちは身勝手だよ。光明さんを妬んでるからって、光明さんを責める理由ばかりを探して……。そして、ポン助のことをそのきっかけに使おうとした」
怒りに共鳴して、私の中の妖力が高ぶる。力の波動で、私の髪や服が波立つようにふわふわと揺れた。
陰陽師たちは「なにをする気だ!」と後ずさる。商店街にいた人たちも、何事だと遠巻きに私たちを見物していた。
「美鈴、落ち着くんや。注目を浴び過ぎれば、お前がけったいな目で見られるんやで。ほら、帰るで」
光明さんが私の腕を引いて、その場から遠ざけようとするが、私の足は頑としてそこから動こうとしない。
なにも言わずに立ち止まったままの私に、光明さんは「美鈴?」と顔を覗き込んでくる。
でも私は、光明さんを押しのけて陰陽師たちの前まで歩いて行き……。
「──ひれ伏せ」
そのひと言で、ふたりはガクンッと膝をついた。
勝手に土下座しようとする身体をなんとか腕を突っ張って堪えているが、彼らの腕はプルプルと震えている。
やがて「なんでだ」「身体が勝手に……っ」と額を地面に擦りつけた。
「──謝罪を」
私の支配下に置かれたふたりは、不本意だと書かれた顔で「申し訳ありませんでした」と謝罪した。
周りにいた子供が「あの人、目の色が変」と私を指差す。
はっと我に返ると、その母親らしき女性が「静かに!」と子供を連れてそそくさと逃げていくのが見えた。
私が向けられているのは、間違いなく畏怖と奇異の眼差し。
「あ……ああ、どうしよう……私、なんでこんなことを……」
手足がカタカタと震え出す。すぐに光明さんが駆け寄ってきて、私の肩を掴んだ。