「平日にお休みなんて珍しいね」

 今日は光明さんの陰陽寮の仕事は休み。

私は水珠と赤珠の代わりに夕飯の買い出しをするため、光明さんとどうしてもついて行きたいというポン助の三人で商店街に来ていた。

「おとといまで出張やったさかい、疲れも溜まってる思て、所長が連勤にならへんように休みを入れてくれたんやろ」

「光明は働きすぎだポン。これを機に長期休暇でもとってくれると、あやかしは平和に暮らせるポンが……」

 男子中学生に化けたポン助は、なぜか学ラン姿。

変化のモデルにした人間がいるのだろうけれど、平日の真っ昼間から商店街を歩いている学生は余計に目立つ気がする。

ほら、「学校はどうしたの?」って、補導もされかねない。

「調子に乗るなや」

 光明さんがポン助の頬を引っ張る。

 買い物を済ませて商店街のアーケードを潜ろうとしたとき、目の前から黒いスーツを着た男性がふたり歩いてきた。

「安倍さんじゃないですか、お疲れ様です」

「今日は非番ですよね。かの有名な安倍晴明の末裔も、自分で買い物をしたりするんですね」

 小馬鹿にするような、笑いを含んだ物言いが妙に鼻につく。

「安倍晴明は人間でありながら、式神やあやかしと好んで暮らしてたそうですからね。買い物くらい、召使いの式神やあやかしを使ったらどうです?」

 話しぶりからするに、陰陽寮の同僚だろう。やたら光明さんへの当たりが強いのが気になるけれど。

 光明さんは「めんどいことになりそうや……」と、顔には出さないものの憂鬱そうに呟く。

「お前らがいるってことは、ここでなにかあったのか?」

「ええ、この商店街の骨董品店で曰く付きの日本刀が出たとかで。妖刀の可能性もあるので、私たちが出向くことになったんです」

 ひとりがここに来た事情を話している横で、もうひとりの陰陽師がじっと探るように私とポン助を観察していた。

「あの、失礼ですが、そちらが例の猫憑きの……」

「例の……?」

 私、陰陽寮でなんて噂されてるんだろう。

「それで、そっちの彼は……」

 同僚の男性の目が今度はポン助に移る。あやかしの気配を感じ取ったのかもしれない。

「姫様……」

 私の腕にしがみつくポン助を背中に隠した。

 けれどもポン助は過度な緊張のせいか、ぴょこんっと耳としっぽを出てしまい……。

「ああっ」

 声をあげながら、慌てて耳と尻尾を手で押さえるも時すでに遅し。

「お前……商店街で盗みを働いてた化け狸じゃないか!」

「光明さんの監視下にあるとは聞いてましたけど、こうして連れ歩くのは問題かと。いくら優秀な陰陽師だからって、破天荒すぎるのもどうかと思いますが」

 そっか、やっとわかった。光明さんへの当たりが強いのは、陰陽師としての優秀さを妬んでるからだ。