「どないな夢やったんや」

「……大切なものが、手のひらからどんどんこぼれ落ちていく夢……。それで、暗闇の中にひとりぼっちになって……」

 悲しくて、寂しくて、苦しくて、怖くて、心が凍りついてしまいそうだった。

「そうか、お前は暗闇苦手やったな」

「うん……孤独を思い知らされるから……」

「……お前はもう、ひとりぼっちにはならへんやろ。過保護な幼馴染と、たぬきのペットと、赤珠と水珠がおるんやさかい」

「光明さん……そこは、俺がいるんだからって言ってくれないの?」

 場を和ませたくてからかってみたら、光明さんはぐっと息を詰まらせる。

 私を励ましてくれたことは、わかっている。光明さんは素直じゃないから、言葉にしてくれないだけで。

 だからこれは重たくなった空気を変えるためと、光明さんの乏しい表情をもっと崩してみたいというほんの出来心だ。

 明らかに動揺している彼をじっと見つめていたら、「見すぎや」と片手で口を覆いながら顔を背けられてしまう。

「ごめんね、ちょっと調子に乗りすぎ……」

 乗りすぎました、と身体を起こしながら伝えようとしたのだが……。私の謝罪は、光明さんの咳払いに遮られた。

「……俺がいる」

「え……」

「どこに閉じ込められていようが、そこが真っ暗でなんも見えへん場所やろうが、探し出したる。ひとりにしいひん、俺の術にかかればすぐに見つけたれる」

 光明さんがこんなにも素直に気持ちを聞かせてくれたことがあっただろうか。

 私が呆気にとられていると、光明さんがおでこをピンッと弾いてきた。

「そやさかい、怖い夢見たくらいで泣きな。心臓止まるか思たやろ」

「私、泣いてたんだ……。ああ、それで光明さんが涙を拭ってくれてたんだ。ありがとう、目が覚めてすぐに光明さんがいてくれて、すごくほっとした」

「……っ、ようすらすらと、そないな恥ずかしいこと言えるなあ」

 私に背中を向けて座り直した光明さんに、愛おしさにも似た感情が込み上げてくる。

 この人は……素直じゃないけど、慰め方も不器用だけど、そんなところが……。

 そこで気づいてしまった。いつの間にか、光明さんへ抱く感情がこの世界でたったひとり、特別な人に向けるものに変わっていたこと。

家族を奪われた憎しみに苦しんでいた彼を支えたいと強く思った理由も、なにもかも……この想いに繋がっていたんだ。

「光明さん、こっちを向いて?」

 私は拗ねて背中を向けてしまった彼に呼びかける。でも、まだ気恥ずかしいのか、こちらを振り返ってはくれない。

 痺れを切らした私は、彼の大きな背中に頬をくっつけた。

 光明さんがビクッとして、慌てたように私のほうを向く。

「お前、なにして──」