「憎んで、許して、償うて……終わりがあらへんな。俺らは今を生きてる、大事な者もおる、俺らみたいな存在を生み出さへん、それがこれからすべきことであって、許しと償いを昇華していくための答えなんちゃうか」
「そう、だな……我々は物事を複雑化していたようだ。許しと償いについて考えるより、今度こそ大事な者の未来のため、我らの憎しみはここで飲み込もうぞ」
「異論はあらへん」
光明さんがすっと手を差し出すと、紫苑は呆気にとられた様子でそれを見下ろす。
「お前といい、美鈴姫といい……変わり者で似た者夫婦だな」
おかしそうに肩を震わせ、紫苑は「……感謝する、光明」と言い、その手を取った。
和解の一歩として、光明さんはそのまま屋敷に土蜘蛛を住まわせることにした。
「本当にいいのか、光明」
紫苑はこれから建て直される光明さんの屋敷を、感無量な面持ちで見上げている。
「ああ、かまへん、かまへん。どうせ空き家やったしな、誰かが住んどったほうが家も痛まへんやろ」
「自分の家にあやかしを住まわせるとは……やはり安倍晴明と同じ魂を持つだけあるな。あれも人間とはつるまず、好き好んで式神とあやかしとひっそり暮らしていた」
ふたりは数日前まで憎しみ合っていたとは思えないほど打ち解けている。私はポン助を抱えて、紫苑たちのところへ向かった。
「紫苑は、前世の私たちを知ってるんですよね?」
「よく知っているとも。私はあやかし七衆の中では美琴姫……前世のお前と最も気が合ったゆえ、茶飲み仲間だったのだ。無論、そこに清明もちゃっかり加わっていたが」
「見て見たかったな、三人のお茶会」
「そうだな、叶うならばまた茶を飲み交わしたいものだ」
寂しげな目をしたのは、もうこの世に美琴さんも晴明さんもいないからだろう。
「今度は私たちと、お茶会しましょう」
「オラも参加するポン!」
腕の中のポン助も短い手を挙げた。私はポン助に手を添え、わざとらしくお辞儀する。
「うちのポン助の変化ショーは天下一品ですよ、ご期待あれ!」
「余興つきか、まるで宴会だな。ならば土蜘蛛の連中からも、人形劇のショーをご覧に入れよう」
「人形劇……し、紫苑? それって、念のため、念のためですよ? 本当の人じゃないですよね?」
「……ふふ」
──なんなの、その含み笑い!
青くなっているだろう私の顔を楽しそうに眺めている紫苑。その横で光明さんがため息をついた。
「勘弁してや、もし人間を操り人形なんかにしたら、俺が退治しいひんとならへんくなるやろ……」
「冗談だ。茶会には光明も来てくれるのだろう?」
「そうやな、付き合うたる」
光明さんも乗り気みたいでよかった。光明さんからは、あやかしを邪険にしていた頃の棘はもう感じない。
お互いに消化しきれない感情もあるだろう。それでも歩み寄ると決めたから、こうして距離を縮めようとしている。
あやかしと人が、今の紫苑や光明さんみたいに手を取り合っていけたらいいな。
「そう、だな……我々は物事を複雑化していたようだ。許しと償いについて考えるより、今度こそ大事な者の未来のため、我らの憎しみはここで飲み込もうぞ」
「異論はあらへん」
光明さんがすっと手を差し出すと、紫苑は呆気にとられた様子でそれを見下ろす。
「お前といい、美鈴姫といい……変わり者で似た者夫婦だな」
おかしそうに肩を震わせ、紫苑は「……感謝する、光明」と言い、その手を取った。
和解の一歩として、光明さんはそのまま屋敷に土蜘蛛を住まわせることにした。
「本当にいいのか、光明」
紫苑はこれから建て直される光明さんの屋敷を、感無量な面持ちで見上げている。
「ああ、かまへん、かまへん。どうせ空き家やったしな、誰かが住んどったほうが家も痛まへんやろ」
「自分の家にあやかしを住まわせるとは……やはり安倍晴明と同じ魂を持つだけあるな。あれも人間とはつるまず、好き好んで式神とあやかしとひっそり暮らしていた」
ふたりは数日前まで憎しみ合っていたとは思えないほど打ち解けている。私はポン助を抱えて、紫苑たちのところへ向かった。
「紫苑は、前世の私たちを知ってるんですよね?」
「よく知っているとも。私はあやかし七衆の中では美琴姫……前世のお前と最も気が合ったゆえ、茶飲み仲間だったのだ。無論、そこに清明もちゃっかり加わっていたが」
「見て見たかったな、三人のお茶会」
「そうだな、叶うならばまた茶を飲み交わしたいものだ」
寂しげな目をしたのは、もうこの世に美琴さんも晴明さんもいないからだろう。
「今度は私たちと、お茶会しましょう」
「オラも参加するポン!」
腕の中のポン助も短い手を挙げた。私はポン助に手を添え、わざとらしくお辞儀する。
「うちのポン助の変化ショーは天下一品ですよ、ご期待あれ!」
「余興つきか、まるで宴会だな。ならば土蜘蛛の連中からも、人形劇のショーをご覧に入れよう」
「人形劇……し、紫苑? それって、念のため、念のためですよ? 本当の人じゃないですよね?」
「……ふふ」
──なんなの、その含み笑い!
青くなっているだろう私の顔を楽しそうに眺めている紫苑。その横で光明さんがため息をついた。
「勘弁してや、もし人間を操り人形なんかにしたら、俺が退治しいひんとならへんくなるやろ……」
「冗談だ。茶会には光明も来てくれるのだろう?」
「そうやな、付き合うたる」
光明さんも乗り気みたいでよかった。光明さんからは、あやかしを邪険にしていた頃の棘はもう感じない。
お互いに消化しきれない感情もあるだろう。それでも歩み寄ると決めたから、こうして距離を縮めようとしている。
あやかしと人が、今の紫苑や光明さんみたいに手を取り合っていけたらいいな。