「親父とお袋がしたこと……正直、信じたないな。そやけど、ひとつだけ言い訳をさせてや」
光明さんは額から手を離し、紫苑に真摯に向き合う。
「生まれながらに陰陽師の資質を持って生まれた人間は代々、あやかしは滅するべきものやと教えられて育つ。あやかしに情やらない、人間に害成す者やと……」
「だから、あやかしにも心があるなんて知らなかったと……そう言いたいのか。その無知さが、多くのあやかしを死に追いやったのだ」
「ああ、弁解の余地もない。その無知さを詫びたい……本当にすまなかった」
頭を下げた光明さんは、そのまま続ける。
「ただ、両親は後悔しとった。俺に『すべてはうちらが招いたこと』やと、そう言うとったさかい……。復讐されて初めて、あやかしにも仲間の死を悼み、仲間を死に追いやった人間を憎む心があること、あやかしにとって俺ら陰陽師は復讐相手なんやって……そうわかったんや思う」
「ただ殺すだけでは飽き足らず、同士討ちをさせた……あの血も涙もない陰陽師たちが……自分の罪を認めたのか?」
「土蜘蛛は数が多かった。ゆえに陰陽師ふたりで相手をするには、骨が折れる。そのためにとったのが同士討ちやったのや思う。ただ、それが非道な手段であることには変わりあらへん。あなただけでのうて、すべての土蜘蛛たちに謝罪をしたい」
ひたすら平身低頭する光明さんに、紫苑は唖然とした様子で固まっていた。
「……虫を駆除するように、あやかしを殺す陰陽師が……」
他の土蜘蛛たちも、ざわつきだす。『今さら許せるはずがない』という叱責の中に、『陰陽師が謝罪をするなんて』というどよめきもあがっていた。
「いや、さすがは安倍晴明の生まれ変わりとも言うべきか。お前も身内を殺された被害者だというのに、変わり者だ」
「被害者、か……それ言うんやったら、あなたもだ」
「……許すとは、なんなのだろうか」
紫苑が重い問いをぶつけると、光明さんも神妙に答えを出す。
「今胸にある感情だけに囚われず、守りたい人が幸せになるために、未来を繋ぐための選択を受け入れること……ちゃうか?」
光明さんはこれから授かるであろう子供やその孫までもが自分の生み出した憎しみの犠牲にならないよう、両親を殺された憎しみを静めた。
大切な人の未来のために、歩み寄るという選択をしたのだ。
「逆に、償うってなんなんや?」
「身内の業を子やその仲間がともに背負う必要はない……というのは、喪失を知らない者が口にできる戯言だ。大事な者を傷つけられたら、その血縁者さえも憎らしく思う。部外者としては見れぬ」
「なら、どう償えば……奪われた者の心は救われる」
「それは私も知りたい。私は……お前の親を殺したのだからな」
出ない答えに向き合うふたり。静観しているみんなも、『許すこと』『償うこと』について自分に問うているように見えた。
光明さんは額から手を離し、紫苑に真摯に向き合う。
「生まれながらに陰陽師の資質を持って生まれた人間は代々、あやかしは滅するべきものやと教えられて育つ。あやかしに情やらない、人間に害成す者やと……」
「だから、あやかしにも心があるなんて知らなかったと……そう言いたいのか。その無知さが、多くのあやかしを死に追いやったのだ」
「ああ、弁解の余地もない。その無知さを詫びたい……本当にすまなかった」
頭を下げた光明さんは、そのまま続ける。
「ただ、両親は後悔しとった。俺に『すべてはうちらが招いたこと』やと、そう言うとったさかい……。復讐されて初めて、あやかしにも仲間の死を悼み、仲間を死に追いやった人間を憎む心があること、あやかしにとって俺ら陰陽師は復讐相手なんやって……そうわかったんや思う」
「ただ殺すだけでは飽き足らず、同士討ちをさせた……あの血も涙もない陰陽師たちが……自分の罪を認めたのか?」
「土蜘蛛は数が多かった。ゆえに陰陽師ふたりで相手をするには、骨が折れる。そのためにとったのが同士討ちやったのや思う。ただ、それが非道な手段であることには変わりあらへん。あなただけでのうて、すべての土蜘蛛たちに謝罪をしたい」
ひたすら平身低頭する光明さんに、紫苑は唖然とした様子で固まっていた。
「……虫を駆除するように、あやかしを殺す陰陽師が……」
他の土蜘蛛たちも、ざわつきだす。『今さら許せるはずがない』という叱責の中に、『陰陽師が謝罪をするなんて』というどよめきもあがっていた。
「いや、さすがは安倍晴明の生まれ変わりとも言うべきか。お前も身内を殺された被害者だというのに、変わり者だ」
「被害者、か……それ言うんやったら、あなたもだ」
「……許すとは、なんなのだろうか」
紫苑が重い問いをぶつけると、光明さんも神妙に答えを出す。
「今胸にある感情だけに囚われず、守りたい人が幸せになるために、未来を繋ぐための選択を受け入れること……ちゃうか?」
光明さんはこれから授かるであろう子供やその孫までもが自分の生み出した憎しみの犠牲にならないよう、両親を殺された憎しみを静めた。
大切な人の未来のために、歩み寄るという選択をしたのだ。
「逆に、償うってなんなんや?」
「身内の業を子やその仲間がともに背負う必要はない……というのは、喪失を知らない者が口にできる戯言だ。大事な者を傷つけられたら、その血縁者さえも憎らしく思う。部外者としては見れぬ」
「なら、どう償えば……奪われた者の心は救われる」
「それは私も知りたい。私は……お前の親を殺したのだからな」
出ない答えに向き合うふたり。静観しているみんなも、『許すこと』『償うこと』について自分に問うているように見えた。