『なぜだ……なぜ! こんなことになった!』

『塚に貼られていた札です。それは仲間同士が敵に見えるように仕向ける幻術のかけられた札だったのでしょう。なんと惨いことを……っ』

 生き残った一族の者から報告を聞いている間、我々を殺し合わせた陰陽師への憎悪が底なしにわく。

 私が他のあやかしを助けている間に、仲間が殺し合っていた。

 皆が仲間を手にかけなければならず、苦しんでいるときにそばにいて止められなかった自分が許せなくて頭がどうにかなりそうだった。

 私は積み上げられた土蜘蛛たちの亡骸の前で崩れ落ち、地面の土を両手で握り締める。

手のひらに感じた冷たい土の感触は、こぼれ落ちていった同胞たちの命のように思えて、視界が涙で歪んだ。

『……土蜘蛛は……人間との和平を望んできた。争いはなにも生まぬ、永遠に恨み恨まれ……殺し合いが続くだけだ。そう思って、いつかわかり合える日がくると……そう、願っていたから、陰陽師どもが我らを討伐しようとしたことも、あやかしの住処を奪おうとも、黙っていたのだ。それなのに……この仕打ちか……!』

 静かな怒りに震え、私は立ち上がる。

『……もう、耐えるだけでは同胞を守れぬ。我らを貶めた陰陽師たちを、生きているほうが苦痛だと思うほど、絶望に陥れてやろうぞ』

 反論する者など誰ひとりとしていない。仲間を奪われた憎しみに闘志を燃やす土蜘蛛たちは、賛同を込めて『おおーっ』と雄叫びをあげたのだった。

***

「……だから私は、安倍家の陰陽師が屋敷の外に出るよう、近場で仲間に騒ぎを起こさせた。陰陽師たちが屋敷の結界の外に出る機会を見計らい、気づかれぬように呪毒(じゅどく)を盛ったのだ」

 大切な仲間が殺し合う……。今まで和平派だった紫苑が人間を見限るには十分すぎる理由だった。

「……紫苑、つらかったですよね……」

 紫苑の腕に手を添える。それっきり気の利いた言葉をかけられないでいたら、紫苑は私の眉間を指で伸ばした。

「美鈴姫、他者のことにまで心を裂いていたら、どんどん心がすり減って、いつかは消えてしまうぞ」

「……でも、心が痛まなかったら、それはもう心じゃないでしょう? だから、一緒に悲しむくらいさせてください」

 人もあやかしも好き。だから、どうして殺し合わなきゃいけないのか、それがもどかしくて、歯がゆくてしかたなかった。

「土蜘蛛の長である紫苑様の呪毒は、毒を操る数多のあやかしの中で随一を誇る致死率なんですポン。滅多に使うことはないと聞いておりましたポンが……」

 おずおずと口を挟んだポン助に、紫苑は複雑な笑みを浮かべて目を伏せた。

「私も使ったのは、あれが数百年ぶりだった」

「そないな、怒りやったちゅうことか……そやさかい『すべては私たちが招いたこと』『俺の尻拭いをさせるなんて情けない』……やったのか……」

 弱々しくご両親が残した言葉を口にし、紫苑同様にその場に座り込む光明さん。額を押さえて、ふーっと深く息を吐いていた。