「ここにいるみんなだけじゃなくて、相手が陰陽師だろうと人間だろうとあやかしだろうと、殺さないで……」

 そこまで言って、私は口を結んだ。

 ただ手を引いてくれと、こちらの要件を押しつけるだけじゃダメだ。

何度も歩み寄ろうとしたのに、一方的に狩られてきた彼からしたら、殺さないでくれなんて都合のいい話なのだから。

 さっきの二の舞で、話し合いの前に戦闘が始まってしまう。

「紫苑さん」

「紫苑で構わない。お前は美琴姫……ではなかったな、美琴の生まれ変わりか」

「はい、美鈴と言います。それで紫苑、十年前になにがあったのかはわかりませんし、これまではどんなに歩み寄ろうとしてもわかりあえない陰陽師ばかりだったと思います。だけど、光明さんは今までの陰陽師とは違う、そう断言できます。だから話だけでも、聞いてあげてくれませんか?」

 後ろを向けば、光明さんが「美鈴……」と私の名前を呟いた。光明さんが傷を負いながらも進もうとした道だ。

私が未来まで繋げたいと、もう一度、視線を紫苑に戻す。

「光明さんは、初めはそれはもう、あやかしは狩るべきものだって感じで、敵意バンバン向けてきたんですけど!」

「おい、お前は俺を庇うてるんちゃうんか」

「あ、つい本当のことを……でも、嘘つくわけにいかないし……」

 私はこほんっと咳払いして、話を元に戻す。

「一緒に暮らすようになって、噛み合わなかった価値観が少しずつ噛み合うようになっていって……。お互いの違いが、そんなにないこと、同じように笑ったり泣いたり、怒ったり……お互いに心があることを知っていきました」

「そうや、美鈴たちに出会わな、俺は凝り固まったあやかしへの差別意識を持ったまま、なんの躊躇ものうて、あやかしを狩っとったやろうな」

 光明さん……。
 大切な者を見つめるような柔らかな笑みが、まっすぐ私に向けられていた。

「私たちの間にあった、あやかしと人、あやかしと陰陽師という隔たりは確かに壊していける」

「俺は……美鈴に歩み寄るには、憎しみを断ち切らなあかん、そう教えられた。そら復讐のために生きてきた者からしたら、生きる糧を失うことになるし、これまで犠牲になっていった人たちにも申し訳あらへんって、そないな気持ちになる。そやけど……」 

 光明さんは強く地を踏みしめて、私の隣に立った。

「繰り返したないんだ、大事な人の命を奪われる悲劇を」

「光明さんだから、これまで土蜘蛛の一族と陰陽師の間にあった復讐の連載を止められる。逆を言えば、光明さんが陰陽師でいる間でなければ、二度と和睦の道はないかもしれない。だから、彼の手を取ってほしいんです。お願いします」

 深く頭を下げれば、光明さんも腰を折って「お願いします」と私に続いた。