「だが、実際はどうだ? 何年経っても、陰陽師たちは変わらぬ。バカのひとつ覚えみたいに、あやかしは害悪だと決めつける。本当の悪は、陰陽師たちだろうに」

「そうだな、朝廷や陰陽寮の人間にとって、私たちあやかしは必要悪だった。悪がいるからこそ、自分たちの正しさを証明できる。強大な悪の存在によって、集団の結束が促されるし、その悪に立ち向かう朝廷は民から信頼される。一石二鳥だ」 

 嘲笑が私の唇を掠める。安倍晴明とか、朝廷なんて単語が出てくるってことは、紫苑と前世の私が話しているのは平安時代のこと?

 あやかしと陰陽師は、そんなに昔から争ってたんだ。

「もう陰陽師たちに利用されるのはたくさんだ。残った仲間も数少ない。美琴姫、お前に至っては……」

「……そうだな。 猫又の一族は、もう……」

  心が黒雲に覆われるのを感じた。これは私の感情ではなく、恐らく前世の私の感情だろう。

「私もお前の気持ちがわかるだけに、陰陽師や人間が滅びようが、もうなにも思わぬ。お前の憎しみが晴れると言うのであれば、いくらでも殺せばよかろう」

 え……なにを、言ってるの? 前世の私は人間である陰陽師を愛したんでしょう? なのに、滅びてもいいって、本気で言ってるの?

「ただ、ここにいる者たちを傷つけることは許さん。ここにいる者は唯一、未来の私に残った愛しい存在だ。手を出すのであれば……」

 妖気を一気に放出させたせいか、ぶわっと髪や服がはためく。

「美鈴の身体で無茶をしな。その身体は人間や、力に耐えられへんくなる!」

 光明さんが私の腕を掴もうとしたのだが、触れる前にバチンッと弾かれ、勢いよく後ろに吹き飛ばされた。

『ここまで力を引き出せるようになってたとは……。今の彼女には人間はもちろん、中級のあやかしでさえ、彼女の妖気に当てられてひれ伏すはずだ』

 どこか嬉々として語るタマくんは、恍惚とした表情をしている。

私の知っている幼馴染の彼が、全くの別人になってしまったみたいで、胸がモヤモヤとした。

 だけど指先から足先から、じわじわとやすりで削られていくような激痛が思考を食いつくしていく。

 このままじゃ、私が消えてしまう。そうなったら、大好きな人たちのそばにいられなくなる。光明さんを、またひとりにしてしまう……。

「そんな、の……絶対に……ダメえええええええっ」

 腹の底から、ちゃんと自分の意思で声を出せた。まだ、手足の感覚は鈍いけれど、口さえ動けばいい。私はキッと紫苑を真っ向から見据える。