「美鈴!」
光明さんの切羽詰まった声が飛んでくる。
「へ、平気、動けないけど……」
なんとか苦笑を返すと、私たちのやりとりを見ていた紫苑がくっと喉の奥で笑った。
「稀代の陰陽師、安倍晴明の生まれ変わり……。やはり、お前は美琴姫の魂を求めるのか。これは好都合、その情を利用させてもらおうか」
美琴……誰のこと?
紫苑は皮肉のこもった薄笑いをこぼし、指を動かす。その瞬間──私の身体が勝手に動いた。
先ほどの疑問なんて頭から抜け落ち、私は強制的に光明さんの前に立たされる。
「どうして! 身体が勝手に……っ」
「姫様、すぐに助けるポンッ! んーっ、んーっ、ぜえっ、はあっ……暴れても暴れてもーっ、ぐぬぬっ、動かないポンッ」
ポン助はジタバタと暴れ、無駄だとわかると、だらんっと手足を伸ばして疲れ果てていた。
『くっ……紫苑殿……美鈴が傷つくようなことがあれば、相手があなたであろうと許しはしませんよ』
タマくんは牙で糸を切れないとわかると、紫苑を睨みつける。
「誰の許しも必要としていない。ただ、思い知るといい。愛する者に殺される悲しみを、愛する者を殺さなければならない苦痛を」
「回りくどい、どないな意味や?」
「いちいち説明してやる義理はない。お前に待つのは我らが味わった絶望、それだけだ」
凄みのある低音で 取り付く島もないほど事務的にそう告げると、紫苑は私の隣にやってきて、やんわりと腰を抱き寄せてくる。
「ちょっ……離して!」
「我々も古い付き合いのあった友を傷つけたくはなかった。十年前までは、私も和平派だったからな。あやかし七衆の中で、いちばん気が合ったのはお前だ」
紫苑はほくそ笑みながら見せつけるように私の頬をさすり、顎を掴んできた。
光明さんとタマくんの眉がぴくりと震え、ポン助はあわあわしながら見守っている。
「お嫁様……っ」
「そいつは光明様の嫁だぞ! 無礼な真似をしたら、許さないからな!」
水珠と赤珠は糸を凍らせ、燃やそうとするが、糸が頑丈で時間がかかりそうだ。ふたりの顔には悔しさが刻まれている。
「そいつに手ぇ出したら、 許さへんで」
「お前に選択の余地はない」
紫苑はピアノでも引くみたいに指を動かす。
すると、私は自分の意思に関わらず足を前に踏み出していた。そして、あろうことか光明さんの首に両手をかける。
「な、んで……私、こんなこと……!」
私の手は、力を込めて光明さんの首を締めあげようとする。
「ぐっ、くっ……」
光明さんが私の手首を掴み、首から外そうとしたが──。
「抵抗するな、私の糸は彼女に繋がっている。お前が抵抗する素振りを見せた時点で、私の毒を流し込むぞ。そうなれば、彼女の命はないと思え」
それを紫苑の口から聞いた途端、光明さんは腕を下ろした。
光明さんの切羽詰まった声が飛んでくる。
「へ、平気、動けないけど……」
なんとか苦笑を返すと、私たちのやりとりを見ていた紫苑がくっと喉の奥で笑った。
「稀代の陰陽師、安倍晴明の生まれ変わり……。やはり、お前は美琴姫の魂を求めるのか。これは好都合、その情を利用させてもらおうか」
美琴……誰のこと?
紫苑は皮肉のこもった薄笑いをこぼし、指を動かす。その瞬間──私の身体が勝手に動いた。
先ほどの疑問なんて頭から抜け落ち、私は強制的に光明さんの前に立たされる。
「どうして! 身体が勝手に……っ」
「姫様、すぐに助けるポンッ! んーっ、んーっ、ぜえっ、はあっ……暴れても暴れてもーっ、ぐぬぬっ、動かないポンッ」
ポン助はジタバタと暴れ、無駄だとわかると、だらんっと手足を伸ばして疲れ果てていた。
『くっ……紫苑殿……美鈴が傷つくようなことがあれば、相手があなたであろうと許しはしませんよ』
タマくんは牙で糸を切れないとわかると、紫苑を睨みつける。
「誰の許しも必要としていない。ただ、思い知るといい。愛する者に殺される悲しみを、愛する者を殺さなければならない苦痛を」
「回りくどい、どないな意味や?」
「いちいち説明してやる義理はない。お前に待つのは我らが味わった絶望、それだけだ」
凄みのある低音で 取り付く島もないほど事務的にそう告げると、紫苑は私の隣にやってきて、やんわりと腰を抱き寄せてくる。
「ちょっ……離して!」
「我々も古い付き合いのあった友を傷つけたくはなかった。十年前までは、私も和平派だったからな。あやかし七衆の中で、いちばん気が合ったのはお前だ」
紫苑はほくそ笑みながら見せつけるように私の頬をさすり、顎を掴んできた。
光明さんとタマくんの眉がぴくりと震え、ポン助はあわあわしながら見守っている。
「お嫁様……っ」
「そいつは光明様の嫁だぞ! 無礼な真似をしたら、許さないからな!」
水珠と赤珠は糸を凍らせ、燃やそうとするが、糸が頑丈で時間がかかりそうだ。ふたりの顔には悔しさが刻まれている。
「そいつに手ぇ出したら、 許さへんで」
「お前に選択の余地はない」
紫苑はピアノでも引くみたいに指を動かす。
すると、私は自分の意思に関わらず足を前に踏み出していた。そして、あろうことか光明さんの首に両手をかける。
「な、んで……私、こんなこと……!」
私の手は、力を込めて光明さんの首を締めあげようとする。
「ぐっ、くっ……」
光明さんが私の手首を掴み、首から外そうとしたが──。
「抵抗するな、私の糸は彼女に繋がっている。お前が抵抗する素振りを見せた時点で、私の毒を流し込むぞ。そうなれば、彼女の命はないと思え」
それを紫苑の口から聞いた途端、光明さんは腕を下ろした。